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宗教団体の総本山で信者専用の巨大釣鐘を鳴らせ!――爪切男のタクシー×ハンター【第九話】

 私は鐘を鳴らせなかった。だが私の親友は愛する人と一緒に教会の鐘を今から鳴らすのだ。あんなに仲が良かった私たち二人の人生は、どうしてこうも違うものになってしまったのか。少し落ち込んでいる私に運転手が声をかけてきた。 「お客さん、寂しいですか?」 「そうですね。友達が変わったというよりも、全然成長できてない自分自身が寂しいです」 「そんな悲しいこと言わないでくださいよ!」 「私の好きな映画の言葉で『鐘は鳴らさなければ鐘ではない。歌は歌わなければ歌ではない』って言葉があるんです」 「良い言葉ですね~」 「でも、私は鐘を鳴らすことのない寂しい人生を送るんだと思います」 「……お客さん、私はこの教会の近くに住んでますけどね、鐘が鳴ったらうるさくてかなわんですよ」 「……?」 「鐘が鳴り響く派手な人生も良いでしょう。でもあえて鐘を鳴らさない静かな人生も素敵じゃないですか?」 「……」 「そういう静かな人生が好きな女性がきっといますよ、そんな女性と人生を歩むのはどうですか?」 「……そんな人いますかね」 「本当に良い女は静かな場所に居るものです」 「……少し楽になりました。ありがとうございます」  運転手の言葉に本当に救われた私は、晴れやかな気持ちで親友の晴れ姿を見届けた。幸せそうな顔で鐘を鳴らす親友。彼の隣で幸せそうに微笑む彼女。お似合いの夫婦だ。あれも人生、これも人生。そしてこれから私が歩む人生もまた人生なのだ。  披露宴が行われる会場に移動し、自分の席を探して着席する。どういうことか、私の座ったテーブルの同席者は全く面識のない人ばかりだ。他の友達は同じテーブルにかたまっているのに、私だけ仲間外れだ。ちょっとしたイジメなのか。つまらない。  後ほどケータイに届いた親友からのメールにその答えは書いてあった。 「お前のテーブルなんだけど、変な宗教やってる人を集めて座らせたので楽しんでな!」  どうりで全員変な形の数珠をしてたわけだ。昔と何にも変わっていない親友の悪戯心に一安心した。そして私と新興宗教信者たちとの戦いのゴングが鳴り響いた。 文/爪 切男 ’79年生まれ。会社員。ブログ「小野真弓と今年中にラウンドワンに行きたい」が人気。犬が好き。https://twitter.com/tsumekiriman イラスト/ポテチ光秀 ’85年生まれ。漫画家。「オモコロ」で「有刺鉄線ミカワ」など連載中。鳥が好き。https://twitter.com/pote_mitsu ※さまざまなタクシー運転手との出会いと別れを繰り返し、その密室での刹那のやりとりから学んだことを綴ってきた当連載『タクシー×ハンター』がついに書籍化。タクシー運転手とのエピソードを大幅にカットし、“新宿で唾を売る女”アスカとの同棲生活を軸にひとつの物語として再構築した青春私小説『死にたい夜にかぎって』が好評発売中
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死にたい夜にかぎって

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