そして90年代に入ると、CDが売れに売れる時代が訪れた。洋楽メタル・バンドが初のCDリリースに日本を選ぶことも少なくなかった。のちに“V系”と称されるようになるバンドが激増したのもこの頃だ。 　その反面、ジャパメタは不遇の時代を余儀なくされていた。だが、90年代後半期になると、アニメタルとその関連商品が売れるようになる。オタクカルチャーのほうでも、TVアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』が一般層にまで話題となり、フジテレビでアニソン番組が放送されるほどの盛り上がりを見せた。この時期、企画ものメタルとアニソンは、足並みを揃えるように注目を浴びた。 　この盛り上がりは、LAZY再結成やJAM Project結成へとつながってゆき、オタクコミュニティのなかでメタルが可視化され、広がっていった。 　一方のメタルコミュニティのなかでも、同様のことが起こっていた。2ちゃんねるのHR/HM（ハードロック／ヘヴィメタル）板にて、オタク臭漂うメロスパー・クサメタラーが可視化され、こちらではオタクが広がっていったのである。 　2000年代前半期頃には、オタクコミュニティとメタルコミュニティ双方で、オタクとメタルを両方楽しむハイブリッド・ユーザーが可視化されるようになっていた。 　オタクとメタルを両方楽しむハイブリッド・ユーザーが見られるようになって以降、へヴィメタルをネタ的に扱う番組や作品が多くみられるようになった。 　まずは、2005年にテレビ東京で深夜放送された『ヘビメタさん』。『ヘビメタさん』とは「ヘビーメタルサンダー」の略称で、同番組はスクウェア・エニックスが『ヘビーメタルサンダー』というゲームソフトの宣伝のために製作したものである。MEGADETHの元ギタリストながら、「演歌はメタルだ」が持論で、新宿に在住するマーティ・フリードマンや、アニメタルの仕掛け人の久武頼正も出演していた。『ヘビメタさん』は、権威主義の頭の固いメタラーからは批判的な声もあったが、そうではない視聴者には好評だったようだ。筆者も楽しんで観たクチである。 　そして『デトロイト・メタル・シティ』（若杉公徳著）。その名のとおり、デスメタルを題材としたギャグマンガで、2005年から青年向けマンガ雑誌『ヤングアニマル』（白泉社）で連載された。著者の若杉は、このマンガを描くにあたりデスメタルについてまったく知識がなかったと思われる。だが筆者は、このマンガを肯定する。専門知識に縛られてはいけないタイプのマンガだからだ。 　マンガは、著者がそのジャンルについての専門知識を得ると、面白さが減少する場合がある。例えば『キャプテン翼』（高橋陽一著）は、著者がサッカーに詳しくなったことで、超人サッカーマンガとしての面白さが減少してしまったように思う。ゴールポストを使って空中サッカーをやっていた初期の頃のほうが楽しめた。マンガは、緻密な内容の作品よりも、大ざっぱで細かいことは気にしない作品のほうが楽しいのだ。歴史や政治を題材にした細かいことを気にしなければいけない内容のマンガを描いている筆者がそれを言うのもおかしな話ではあるが……。 　同作は2008年、松山ケンイチを主人公に実写映画化され、全国で公開された。主題歌「SATSUGAI」は、日本のヘヴィメタル界で屈指の歌唱力をもつThe冠の冠徹弥＜vo＞が唄っている。さらに翌2009年にはアニメ化され、WOWOWで放送された。 　ところで、この作品で扱われている音楽ジャンルおよびバンドのイメージは、デスメタルというよりもブラックメタルのほうだろう。