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「ブラック労働」がなかなか発覚しない理由

 飲食店員は涙を流し、運送業界は悲鳴をあげる……昨今、人手不足や薄給による労働問題は枚挙にいとまがない。しかし、待遇は安定、人員も潤沢な業界からも「ウチもブラックだ」と怨嗟の声が聞こえているのだ……。

高待遇、社会的地位がブラック労働発覚の足枷に

ブラック企業 狭い世界で忠実に働き続ける労働者は、自分が今いる場所の異常さになかなか気づけない。警察官や学校の教師など地方公務員は、文字通り“公僕”状態に置かれ、仏に仕える者たちは救いのない暗黒浄土を右往左往している。労働問題についての悩み相談に、親身に応え続けて29年になるNPO法人「労働相談センター」事務局長の菅野存氏は、近年のブラック労働の広がりをこう評する。 「ブラックの印象が薄かった業界も、実は『隠れブラック』であると認知されるようになりました。しかし、これらの業界が抱える問題は、居酒屋業界や運送業界など従来から知られたブラック業界と本質的には同じです。労働者に対する搾取の構造はどんな業界にもあって、今まで外部からは見えていなかったけれど、いよいよ可視化されてきたということです」  これまでブラック労働の定義と言えば、「薄給激務」が典型だった。一方、警察官や教師の世界では、「きついパワハラを受けているが、給与面や社会的地位には満足しているので、なかなか辞められない」と精神的な理不尽を甘んじて受けとめる事例が目立つという。“経営者の儲けのための奴隷的なブラック労働”から、問題は次のステージへ移行しているようだ。

奴隷的ブラック労働から次なるステージへ……

「相談を受けていて感じるのが、辛い目に遭っている労働者が、その原因として『経営者が悪い、会社が悪い』とは考えずに、自分より立場が弱い人を見つけて、そこに憂さ晴らしをする傾向が顕著になっていることです」  弱い者がさらに弱いものを叩く、絶望的なブルースが聞こえてきそうだ。だが、これももとをたどれば搾取構造に行き着くというのが菅野氏の見方だ。 「過労死寸前であったり、精神的に耐えられないのであれば退職もひとつの選択肢ですが、組織は不満を持った人がうるさく主張して労働問題化することを何よりも嫌がります。私としては、志を同じくする仲間を見つけて労働組合をつくり、中から組織を変えていってほしいのです」  いつからか立たなくなった労働者たちに、彼の檄は届くのか。 【菅野 存氏】 NPO法人「労働相談センター」事務局長。全国一般東京東部労働組合執行委員長。労働問題・社会問題を、「労働組合で解決する」のがモットー 取材・文/野中ツトム 岡田光雄 福田晃広 鉾木雄哉 片岡あけの 立川眞衣(清談社) ― [教師・警察官・僧侶]のブラック労働が止まらない ―
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