山田ゴメスの俺の恋を笑うな
つまんない話だけど……聞く?
やっぱダメ、だよね……?
当時まだ斬新だった、壁掛け型のCDプレイヤーからキースジャレットのピアノ独奏が、絶妙なセンスのボリュームで流れている。
高速回転するニッケル性の風車のように、ぷるぷると微震する光を放つ剥き出しのディスクの回転が幻想的で、BGMとマッチする。
たしかバッハのゴルトベルクの変奏曲だったと記憶する。
ジャズプレイヤーであるキースが本格的なクラシックに手を染めた二枚組のアルバムで、グレングールドと比べ、小指の力が弱いのではなどと評されたりもした。気のせいか、フレーズにいつものキースらしくない戸惑いが感じられる、ある意味貴重な作品だ。
戸惑い……こんなこれ以上ないシチュエーションで部屋に向かえてくれたのに、僕は両手の張り手で彼のキスを「ゴメン、無理!」と拒絶した。
顔のつくりは僕と同じ系統なのに、10点満点で各パーツごとに0.5点ずつ僕より優れていて、トータルすれば3点ほど僕よりハンサムな彼。まるで「実物より自分がチョッピリ綺麗に見える鏡」みたいな彼だったけど、キスした瞬間の「じょり」という感触をどうしても受けいれることができなかったのだ。
冒頭の台詞を、半分のグレープフルーツでサワー二杯分の果汁を絞り出すように吐いた彼が、無理に作った何とも言えない笑みは、今でも脳裏に焼き付いて離れない。
このように僕の新しい自分探しは未遂に終わり、僕はゲイを断念した……。
(『クイックジャパン』山田ゴメスの体験シリーズ・没原稿より抜粋)
つまんない話で……ごめんね。
キースジャレット
2010.06.16 |
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