罪と罰(下)

 友人の家へと向かう一本道は、まばらとはいえ、何人かの人が歩いていた。

 じっとしゃがんだまま私は、

ねぎだ! ねぎになるんだ!!

と自分に念じながら、人通りが途切れるのをやり過ごす。

 5分ほど経って、ようやく人の気配がなくなったのを確認した後、今度はパンツとズボンの状態を、しゃがんだまんまで確認する。幸いなことに、ズボンにまで被害は及んでいない、みたいだ。

 でも、パンツは相当やばいことになっていた。

 ズボンとパンツがくっつかないよう、注意深く一枚一枚、しゃがんだまんま
コサックダンス
の要領で、ゆっくり脱いでいく。

ここで誰かに見られたらシャレにならない!

と前方に目をやり、用心を強める。夜中、ねぎ畑に下半身すっぽんぽんでしゃがみ込んでいる男は
変質者
以外の何者でもないに違いない。

 尻を拭こうとするが、ティッシュがなかったのでパンツで拭いた。
 糞まみれのパンツはやむを得ず放置しておくことにする。

 ノーパンズボンで駅まで戻り、駅前のローソンで新しいパンツを買った。トイレを借りて履き替える。残り香チェックも、大丈夫だ。ふたたび友人の家へと向かう。さっきの畑に近づくにつれ、
やるせない罪悪感に私は襲われる。畑の前で手を合わせ、頭を下げる。

肥やしになるから、すいません……。

 パーティーは、朝までおおいに盛り上がり、友人宅のソファーの上で目を覚ましたときは、すでに正午を過ぎていた。

 締め切りのせまった原稿があったので、まだ寝ている者たちを起こさぬよう、そっと家を出る。

 仕事をするにはもったいないほどの晴天だった。

そう言えば、うんこしていたときも、空を見上げれば星がいっぱいだったな……。

と思い出す。

 夜には気がつかなかったが、整備された公園や、大きな庭を構えるお屋敷や、都心から私鉄で15分そこそこの地の利とは思えないほど緑がいっぱいで、空気も心なしか、美味しい。

 約12時間前の忌まわしい記憶もすっかり薄れ、清々しさに浸りながら散歩気分を楽しんでいると、昨日の畑が目に入った。

 ねぎの群列の中に、段ボールで作られた一本の立て札が立っていた。

 ちょうど私がうんこをしたあたりの場所だ。

 その立て札には、

ココで大便した人間は地獄に堕ちろ!

と、書いてあった。

 恥ずかしさのあまり、顔中から汗が吹き出る。

 今でも私は、天国に行けない人間のレッテルに悩み、時々もがき苦しんでいる。

 ほんの数年前にしでかした、本当の話である。

(完)

前編はコチラ↓

PROFILE

山田ゴメス
山田ゴメス
1962年大阪府生まれ。マルチライター。エロからファッション、音楽&美術評論まで幅広く精通。西紋啓詞名義でイラストレーターとしても活躍。著書に『「若い人と話が合わない」と思ったら読む本』(日本実業出版社)など
『「若い人と話が合わない」と思ったら読む本』(日本実業出版社)
『「若い人と話が合わない」と思ったら読む本』(日本実業出版社)
OL、学生、フリーター、キャバ嬢……1000人以上のナマの声からあぶり出された、オヤジらしく「モテる」話し方のマナーとコツを教えます

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