傑作中の傑作

会心の出来だと
思わず自画自賛してしまう
原稿が書けてしまうときが
たまにあって、
その「たま」の期間は
下手すれば
4年に一度くらいの
希有な確率だったりも
しなくない。

そして、
ここ数年で
この原稿のクオリティーを
まだ超えることができない
という会心の作品が
2010年の7月、
このブログに書いた
この原稿である。
あまりに勿体ないし、
時期的にもタイムリーに
なってきたので、
再度掲載したい。

【夢日記】
サッカーの日本代表に選ばれる夢を見た。

いよいよW杯を明日に迎えての最終合宿である。
場所は箱根とか伊豆とか、そんなところだ。
東京の自宅から合宿所に向かうバスは満員で、座れなかった。
運悪く朝のラッシュアワーにひっかかってしまったみたいだ。
私と同じジャージを着た代表メンバーの何人かを車内で見かけた。
本田は、おばあちゃんに席を譲っている。
結局、私は合宿所に着くまでずっと立ちっぱなしだったので、足がむくみはじめていた。
私はガンジーの似顔絵がプリントされた白いTシャツに赤い海パンといった格好をしている。
衣類はこれだけしか持ってきていない。
世話役の男に着替えは支給されないのか、と聞いてみるが反応は冷ややかだった。
「支給されるのは練習用と試合用のユニフォームだけで、プライベート用は自前ですよ。きちんと言ったじゃないですかー!」
そうだっけ?
愕然として私は肩を落とす。
近くにコンビニとかはないのか、とも尋ねてみたが、車で1時間以上かかるらしい。
しかたないので、たった1枚しかないTシャツと海パンとパンツを宿舎の地下にあるコインランドリーで洗い、使いまわすことにした。
素人同然の私が代表入りするという大抜擢は、チーム内にも波紋を呼んでいた。
「なんで、こんな下手クソが混じってんだよ!」
「オレ、このまま、このヒトといっしょにピッチに立つんだったら、明日からのW杯、ボイコットします!」
チームメイトから私に浴びせられる罵詈雑言の数々は容赦ないものだった。
私はうつむきながら、じっとただ堪えている。
ザッケローニ監督は腕組みをしながら感情の読めない表情で、沈黙を貫き通している。
最悪の雰囲気のなか、キャプテンの中田だけが私を擁護してくれる。
「新しい血を入れることによって、活路を見いだそうという監督の戦略がわからないのか!?」
「だってこのヒト、オフサイドも知らないんですよ!」
「知らないことが最大の武器なんだよ!」
劣勢の中田の広い背中のうしろで小刻みに震える小ウサギのような私を一瞥し、ザッケローニ監督が短く一言だけ
「そうだ。無知の知、だ」
と言い残し、ミーティングルームをあとにした。
「そうか……無知の知か!?」
「案外、イケるんじゃねえの?」
「うん。やるっきゃないよな!」
「そうだよ! もうやるっきゃないんだよ!!」
と、メンバーたちを鼓舞しながら、まるで自分にも言い聞かすように繰り返す中田の目には、じんわりと涙が浮かんでいる。
いろんな障害を乗り越えて今、チームはひとつになったのだ。
そしてW杯当日、私たち日本代表は大歓声に包まれ、黄色いユニフォームに身をまとい、グラウンドへと駈け出した……

ところで目が覚めた。二の腕を見ると、鳥肌が立っていた。

PROFILE

山田ゴメス
山田ゴメス
1962年大阪府生まれ。マルチライター。エロからファッション、音楽&美術評論まで幅広く精通。西紋啓詞名義でイラストレーターとしても活躍。著書に『「若い人と話が合わない」と思ったら読む本』(日本実業出版社)など
『「若い人と話が合わない」と思ったら読む本』(日本実業出版社)
『「若い人と話が合わない」と思ったら読む本』(日本実業出版社)
OL、学生、フリーター、キャバ嬢……1000人以上のナマの声からあぶり出された、オヤジらしく「モテる」話し方のマナーとコツを教えます

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