世界で一番美味しい珈琲の飲み方教えます――爪切男のタクシー×ハンター【第十一話】

 終電がとうにない深夜の街で、サラリーマン・爪切男は日々タクシーをハントしていた。渋谷から自宅までの乗車時間はおよそ30分――さまざまなタクシー運転手との出会いと別れを繰り返し、密室での刹那のやりとりから学んだことを綴っていきます。

タクシー【第十一話】「こんな場所で自慰をしてしまった俺に怖いものなどあろうか」

 世界で一番美味しい珈琲とは何なのか? 珈琲豆の種類、調理器具、淹れ方などによって、珈琲の味は千差万別に変わるし、人それぞれに好みの味もある。それゆえに、一番美味しい珈琲を決めるというのは大変難しいことだ。だが、私にとっての美味しさの基準は「味」ではない。大事なのは、珈琲を飲むシチュエーションなのである。

 東京は品川区五反田の小さな喫茶店にて、私は世界で一番美味しい珈琲を飲んでいる。この喫茶店が隠れた名店というわけではない。味に関しては、不味くはないが美味しくもないといったところだ。美しい女性と一緒に珈琲を飲んでいるわけでもない。いつだって私は一人なんだ。

 この喫茶店に来る前にひと仕事済ませてきた。その仕事とは職場の部下に風俗を奢ることだ。名前はヤスという。全然仕事ができない男だったが、豊田商事の社長を刺殺した二人組の犯人などをレパートリーとする私の犯罪者モノマネを、ちゃんと理解した上で笑ってくれる貴重な人材だった。そんな彼が退職することになった。次の仕事は決まっていないが、真っ当な仕事に就こうと一大決心したらしい。覚悟を決めた男の旅立ちは盛大に祝ってやらなければいけない。ということで、以前からヤスが行ってみたいと熱弁していた風俗店を奢ることにしたのだ。

 その店の名前は「ビーチクボーイズ」。今はもう閉店してしまっているが、知る人ぞ知る名店であった。

 ひと昔前に、竹野内豊と反町隆史の共演で話題となったTVドラマ『ビーチボーイズ』の名前をモジるどころか、タイトルロゴの文字フォントまでパクッているという気持ちの良いお店であった。店名の通り乳首責めに特化したプレイを楽しめるのだが、風俗嬢は二人派遣されることになっており、基本は3Pである。この理由は、「ビーチクボーイズ」が提供しているコースに関係している。

 「ビーチクボーイズ」の乳首責めプランには二つのコースがある。右乳首担当の女一人、左乳首担当の女一人という風に、両乳首をひたすら責め続けられる「ツインビーコース」。両乳首を責める女一人、チンポを責める女一人に役割分担された「ドリカムコース」の二つである。両乳首を責めるのがベースの中村、チンポをマイクと見立てて握るのがボーカル吉田美和ということであろう。秀逸なネーミングセンスである。

次ページどちらのコースにするか決め切れずにいたヤス

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