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世界で一番美味しい珈琲の飲み方教えます――爪切男のタクシー×ハンター【第十一話】

 すると、ずっと黙っていた運転手が口を開いた。 「お客さん、そんなに内定もらって、結局どこに就職することにしたんですか?」 「帽子屋さんです」 「帽子屋? 意外ですね」 「六階建ての自社ビルを持ってる帽子屋で、一階から六階まで全部のフロアで、本当に帽子しか売ってないんですよ」 「すごい! 帽子のデパートじゃないですか!」 「でも……内定式の前日に辞退しちゃったんですけどね」 「えっ? おしゃれな会社だと思うのに……どうして?」 「気づいちゃったんですよね。帽子売り過ぎだろって……」 「……え?」 「六階全部使って帽子しか売ってない会社なんて宗教より怖いですよ」 「……」 「本当にオシャレな帽子屋だったら、素敵な帽子だけを集めて狭い店内で販売するだろうなって気づいちゃったんです」 「……それは一理ありますね」 「なんでも多ければいいってもんじゃないなって気づいたんです。量が多いだけなのは気持ち悪いです」 「……おっしゃる通りですね。そう言われたら……私も似たような経験あるんですよ」 「と言いますと?」 「私、餃子が大好きでしてね、この前の休みの日に友達を呼んで餃子パーティを家で開きましたらね」 「はい」 「張り切っちゃって餃子を二百個ぐらい自分で作ったんですが」 「はい」 「餃子も二百個並ぶと気持ち悪かったです。あの餃子の形も不自然に思えちゃって」 「ですよね! なんでも適量が一番ですよね。餃子は六個ぐらいがちょうどいいです」 「そうですね~!」  運転手と私の会話を聴いていたヤスが口を開いた。 「餃子と言えば、餃子を二つ合わせたらマ●コと同じ形になるの知ってました?」  その言葉を聴いた運転手と私は顔を見合わせて笑った。 「運転手さん、今から行ける美味しい餃子のお店知ってますか?」 「一軒だけ心当たりがありますよ」 「ヤス、マ●コ食いに行こう」 「……ハイ!」  夜はこれからだ。 文/爪 切男 ’79年生まれ。会社員。ブログ「小野真弓と今年中にラウンドワンに行きたい」が人気。犬が好き。 https://twitter.com/tsumekiriman イラスト/ポテチ光秀 ’85年生まれ。漫画家。「オモコロ」で「有刺鉄線ミカワ」など連載中。鳥が好き。 https://twitter.com/pote_mitsu ※さまざまなタクシー運転手との出会いと別れを繰り返し、その密室での刹那のやりとりから学んだことを綴ってきた当連載『タクシー×ハンター』がついに書籍化。タクシー運転手とのエピソードを大幅にカットし、“新宿で唾を売る女”アスカとの同棲生活を軸にひとつの物語として再構築した青春私小説『死にたい夜にかぎって』が好評発売中
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死にたい夜にかぎって

もの悲しくもユーモア溢れる文体で実体験を綴る“野良の偉才”、己の辱を晒してついにデビュー!

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