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世界で一番美味しい珈琲の飲み方教えます――爪切男のタクシー×ハンター【第十一話】

 私の予想の斜め上をいき、自分の両乳首を手で擦りながら猛ダッシュで喫茶店に駆け込んで来たヤス。そんなヤスから、本日のプレイ内容を聞くことにしたが、興奮状態のヤスが何を話しているのか全く分からない。それに加え、息継ぎをする時に、星のカービィが敵を吸い込む時と同じぐらいの強さで空気を吸い込むので、そのたびに咳込んでしまって大変だった。 「乳首を責められ過ぎて疲れたました。帰りたいです」  こんなことを言う可愛いヤスを満員電車で帰すわけにはいかない。私はヤスと一緒にタクシーで帰ることにした。その日の運転手は、ニュースキャスターの木村太郎によく似た中年のおじさん。口数は極端に少なく、運転のみに集中したいタイプのようだ。 「相談したいことがあります……就職活動が不安なんです。面接が特に不安で……何か必勝法とかありますか?」  乳首疲れをしていたヤスが、いつにもなく真面目な口調で言ってきた。ヤスが今までやってきた仕事は、運び屋にバーの用心棒とかろくなもんじゃなかった。それは先行きが不安にもなるだろう。人生の先輩として、私独自の面接の極意をヤスに伝えることにした。  大学時代の就職活動、苦戦する同級生たちを尻目に、私は内定を五、六社から頂いた。面接試験は全然苦にはならなかった。私には面接必勝法があったからだ。  それは自慰行為である。  自慰を終えた後の万能感と平常心さえあれば面接など何も怖くない。ただ、私が提唱する自慰行為は甘くはない。試験当日、自宅で自慰をしてから会場に向かうような軟弱な自慰では、厳しい就職戦線を勝ち抜くことはできない。少し早めに相手の会社に向かい、面接開始前に、希望会社のトイレで自慰を行うのだ。敵の本陣近くに切り込んで行う自慰こそ、武士の自慰、男の自慰である。関ケ原の戦いで、敗戦濃厚になりながらも、島津武士の誇りを守るために、家康の本陣近くまで切り込む意地を見せてから退却した勇猛果敢な島津軍の魂で自慰をするのだ。 「こんな場所で自慰をしてしまった俺に怖いものなどあろうか、いやない」  この強い気持ちから生まれる精神的優位があれば、役員面接、グループ面接に圧迫面接、どんな面接も怖くない。ライバルの就活生など相手になるものか。栄光の内定通知はすぐ目の前にある。  もちろんこの必勝法とて絶対ではない。たまには落ちることもある。だが、落ち込む必要などない。原因として考えられるのは二つ。一つはトイレで自慰をしたことが相手の会社にバレているのだ。ということは、その会社はトイレ周りにも監視カメラを仕掛けているようなゲスな会社なのだ。そんなブラック企業はこちらから願い下げである。もう一つの理由は、他の候補者も自分と同じく、面接前に自慰をしていた可能性だ。敵ながら天晴れである。同じ条件下で負けたのなら諦めも付くものだ。素直に負けを認められる大きな人間になろう。この敗北は次にきっと繋がるのだから。  私の話を聞き終えたヤスは、羨望のまなざしでこちらを見つめて言った。 「カッコイイっす……」
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ずっと黙っていた運転手が口を開いた
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死にたい夜にかぎって

もの悲しくもユーモア溢れる文体で実体験を綴る“野良の偉才”、己の辱を晒してついにデビュー!

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