ライフ

テレクラで出会った“大きすぎる女”の手はとても温かかった――爪切男のタクシー×ハンター【第十五話】

 おかしい。待ち合わせ場所である渋谷ハチ公像に向かいながら思う。ハチ公像からかなり離れた場所からでも、その姿を確認できるほど高身長の大女がいる。確かにいる。プロレスラーで言えばジャイアント馬場か、もしくはエル・ヒガンテぐらいの身長か。女はなぜか直立不動の姿勢で堂々と立っていた。小さめの顔に広過ぎる肩幅、キン肉マンに出て来る悪魔将軍のような体つきをしている。恐る恐る声をかけたところ、彼女は天空の高さから地上に向けて微笑んだ。  顔は松嶋菜々子に似ていると言っていたが、TRFのSAMのようなポニーテールの髪型をしたフランケンシュタインと言った方がしっくりくる顔だった。話は違ったが、彼女の笑顔が何とも愛くるしかったので「会えてよかったな」と思った。身長が高いのに厚底のブーツを履いていたので、さらに身長が高くなっていた。  彼女と一緒にセンター街を歩く。渋谷に来るのは本当に久しぶりだということだ。彼女の大きさがどうしても人目を引き、奇異の目で見られてしまう。彼女の顔がうつむき加減になったので彼女の手を握ってあげた。彼女は一瞬驚いたが、その手を振りほどくことはなかった。彼女は温かい手をしていた。  何かご飯を食べに行こうという話になったが、めぼしい店が無かったので彼女に良い店を知らないか聞いてみる。美味しい豆腐料理専門店を知っているということなのでスペイン坂に進路を変える。お店に向かう途中も手を放すことはなかった。そして豆腐料理屋もなかった。 「嘘……ここにあったんだよ……」 「潰れちゃったのかな? 仕方ないね」 「ここに本当にあったの……本当なの……」 「疑ってないよ! 大丈夫大丈夫!」 「本当に良い店だったのに……なんで……」  私の励ましの声も聞こえないぐらいに彼女は落ち込み、店があったのであろう空き地をただ茫然と見つめていた。その背中は、ふるさとの村を焼き討ちにされた悲しみで立ち尽くす巨人族の背中にダブり、大きな背中がなんとなく小さく見えた。
次のページ right-delta
適当に入った焼き肉屋で食事をしながら彼女の身の上話を聞く
1
2
3
4
5
6
死にたい夜にかぎって

もの悲しくもユーモア溢れる文体で実体験を綴る“野良の偉才”、己の辱を晒してついにデビュー!

⇒立ち読みはコチラ http://fusosha.tameshiyo.me/9784594078980

おすすめ記事