テレクラで出会った“大きすぎる女”の手はとても温かかった――爪切男のタクシー×ハンター【第十五話】
目的地に着いた。トランスフォーマーのロボットが車の形態からロボット形態に変形するような動きをして、彼女はタクシーの外に出た。そして笑顔で手を振って別れた。タクシーがかなり離れてからでも、彼女の大きな身体を確認することができた。それはまるで漁師の帰りを待っている灯台のような雄大さがあった。
「運転手さん、さっきの女の子とは今日初めて会ったんですよ」
「そうだったんですか、彼女さんかと思ってましたよ」
「そう見えました?」
「私にはそう見えました」
「最初会った時、身長すごく大きくてビックリしました」
「何かスポーツでもしてらしたんですか?」
「生まれつきらしいです」
「……そうですか」
「………」
「………」
「運転手さん、本当に色んな人間がいますよね」
「……そうですね」
「同じ人間なのにみんな違いますよね」
「……私ね、趣味でプラモデルやってまして」
「……はい」
「最初は設計図の通りに組み立てることに必死だったんですけどね、ずっと作っていると思うことがあるんです」
「……はい」
「設計図の通りに組み立てる必要なんてないんですよね。部品が余ったっていいし、設計図と違った部品の付け方をしてもいい、最終的に自分の思う物を完成出来たらそれが一番なんですよね」
「……確かにそうですね」
「人間も同じかなぁなんて思いますね、みんな部品の付き方が違ったり、足りない部品があるからいろんな人間がいるんじゃないでしょうか」
「そう考えると面白いですね」
「そう、でも部品の付け方によっては隙間がどうしても出来ちゃう。その隙間を他人に埋めてもらうために恋をするんじゃないですかね」
「……素敵ですね」
運転手の粋な言葉のおかげで色々救われた気分になった。タクシーを降りてすぐに電話をしてビックリさせてやろう。そう思って彼女に電話をかけたが、教えてもらった番号がつながることはなかった。そして彼女からの連絡もなかった。
巨人との一夜限りの淡い恋だった。私の人生で絶対に忘れることのできない素敵な女だ。男はデカい方が格好良い、女だってデカい方が格好良い。
文/爪 切男 ’79年生まれ。会社員。ブログ「小野真弓と今年中にラウンドワンに行きたい」が人気。犬が好き。 https://twitter.com/tsumekiriman
イラスト/ポテチ光秀 ’85年生まれ。漫画家。週刊SPA!に読み切り漫画『食べる前に死んじゃう』掲載(12月13日発売号)。鳥が好き。 https://twitter.com/pote_mitsu
※さまざまなタクシー運転手との出会いと別れを繰り返し、その密室での刹那のやりとりから学んだことを綴ってきた当連載『タクシー×ハンター』がついに書籍化。タクシー運転手とのエピソードを大幅にカットし、“新宿で唾を売る女”アスカとの同棲生活を軸にひとつの物語として再構築した青春私小説『死にたい夜にかぎって』が好評発売中

―[爪切男の『死にたい夜にかぎって』]―
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『死にたい夜にかぎって』 もの悲しくもユーモア溢れる文体で実体験を綴る“野良の偉才”、己の辱を晒してついにデビュー! ![]() |
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