テレクラで出会った“大きすぎる女”の手はとても温かかった――爪切男のタクシー×ハンター【第十五話】
適当に入った焼き肉屋で食事をしながら彼女の身の上話を聞く。
生まれた時はこんな体ではなかったこと。特にスポーツもしてないのに身長の伸びが止まらなかったこと。「ミスター・ビッグ」と「アルデバラン」というあだ名で呼ばれていじめられたこと。ドッジボールで普通に球を投げてるだけなのに「アックスショット」と言われてイジメられたこと。やっぱり外に出るのは楽しいなと思ったこと。さっきは手を握ってくれて嬉しかったということ。
本当にたくさんの話をしてくれた。彼女が話したいことだけを聞き、余計な質問はしなかった。
焼肉の後にホテルに行くような流れになるのかなと思っていたのだが、彼女と話しているうちにそういうことはできないなと思った。ただもう一度会いたい。もっと彼女のことを知って単純に仲良くなりたい。そう思って、彼女と連絡先の交換をした。
私が思わせぶりに手を握ったことで、彼女はセックスを期待していたのかもしれないが、その日は真っすぐ帰ることにした。彼女は少し残念そうな顔をしていた。深夜になり終電も無くなったので、帰りのタクシー代を彼女に渡したところ、途中まで同じルートだというので一緒のタクシーで帰ることにした。彼女は大きな身体をうまく折り畳みタクシーに乗り込んだ。運転手はバックミラー越しに彼女を見て、私を見て、もう一度彼女を見た。
「お兄さん、今日は本当にありがとう」
「こっちこそ、会ってくれてありがとう」
「また……会ってくれるのかな?」
「うん、会うよ」
「ありがとう……ねぇ」
「何?」
「私の身体ってすごく大きいからね、よくイジメられたの」
「うん」
「学校も行かなくなって、親にもすごく心配かけちゃったの」
「そうなんだ」
「でもね、お父さんに言われたの」
「うん」
「男は最終的にデカい女を選ぶ。年を重ねて色々な荷物を背負った男を受け止められるのは単純にデカい女なんだってね」
「良い言葉だね……」
「だから、私、長生きして良い男捕まえるの」
「きっと捕まえられるよ」
最後にそう言った途端に、なぜか少し泣きそうになってしまい、涙を堪えるのが大変だった。
『死にたい夜にかぎって』 もの悲しくもユーモア溢れる文体で実体験を綴る“野良の偉才”、己の辱を晒してついにデビュー! |
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