テレクラで出会った“大きすぎる女”の手はとても温かかった――爪切男のタクシー×ハンター【第十五話】
ベランダに転がるカナブンの死体を眺めつつ、そんな過去を思い出していた。今日も真っすぐ家に帰りたくない気分になってしまい、私は夜の街に繰り出した。
中華料理屋で空腹を満たした後、店のすぐ横にあるテレクラが目に入った。テレクラとは、テレフォンクラブの略称である。漫画喫茶のような個室の中に電話が配置されており、女性からの電話が次々とかかってくる。女性と会話だけを楽しんで時間を潰すのもよし、話がまとまればデートもできる。場合によっては即日セックスまで持ち込むことも可能ではある。ただ、電話の内訳は、話を引き延ばすだけの業者が雇ったサクラ女、単純に暇つぶしで電話をしてくる女、援助交際を持ち掛けてくるお金に困った女からの電話がほとんどである。タダでヤらせてくれる女など皆無だ。だが、私は特に性行為などは求めておらず、その日知り合った女とバカ話をしながら飯を食って、街をブラブラ歩くことが好きだった。そうしていると自分の心の隙間が埋まるような気がしていたので、テレクラはたまに利用していた。
その日の電話も相変わらずだった。サクラ、ババアのどうでもいい長話、本当にお金に困っているので五千円でヤらせてくれるという悲しい女。個室の天井を見上げながら「今日はハズレかな……」と諦めかけた時にその電話はかかってきた。
サクラのような雰囲気もなく、最初から援助交際を求めてくるようなガツガツさもない落ち着いた声の彼女。おそらく暇つぶしなのだろうが、その日の電話の中では、初めて楽しく会話ができたのに気分を良くした私は、ダメもとでご飯に誘うことにした。
「よかったらさ、これから渋谷でご飯でも食べない?」
「え……それってエッチしようってことですか?」
「ん~~、信用してもらえないだろうけど、俺、そういうことより女の子とデートしたいだけなんだよね」
「本当かな~~~」
「不安だとは思うから無理にとは言わないよ」
「会うのは別にいいんだけど……」
「あ、お金? それは全部俺が持つよ」
「そんなの当たり前じゃん(笑)。違うの……」
「言いにくいこと?」
「私ね……会ったらきっと嫌われちゃうから……」
「そんなことないよ」
「私、背がすっごく高いの、だから引かれちゃうの」
「身長なんて気にすることないじゃない。俺は引かないよ」
「私、背が高いってもんじゃなくて、巨人なんだよね……」
会うしかない。この世に男として生まれたからには、自分よりデカい女を幸せにしないでどうする。
警戒する彼女を勇気づけ、ハチ公前での待ち合わせを決めた。どうせそこまでの大きさではない。女というものは何でも大袈裟に言いたがる生き物だ。仮にそこそこの大きさであっても、身長190cmを超えるロシアの美人バレーボール選手のアルタモノワ選手をよくオカズにしていた私には何の問題もない。そう思いながらハチ公前へと急いだ。
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『死にたい夜にかぎって』 もの悲しくもユーモア溢れる文体で実体験を綴る“野良の偉才”、己の辱を晒してついにデビュー! ![]() |
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