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サンタの格好をしたストリップ嬢のおっぱいに「メリークリスマス」とつぶやいた夜――爪切男のタクシー×ハンター【第十六話】

 そして迎える息子のデビュー戦。私はこっそりタイに渡り、試合会場の隅っこからたくましく育った息子の試合を見届ける。きっと最初から最後まで号泣しているだろう。息子が無事に試合を終えたのを確認したら、何も言葉はかけず、「素晴らしい試合だった。父より」と書いた手紙だけを関係者に渡して日本に帰る。息子のために私は仕事を頑張り、何人もの息子を抱えていくのだ。  そんなことを繰り返しているうちに、タイのキックボクサー界は私の援助を受けた息子たちで一杯になる。そして私が年老いて余命がなくなった頃、私の歴代の息子たちを一堂に集めて「息子ナンバー1決定戦」という悪趣味なワンナイトトーナメント戦を開催したい。現役バリバリで脂が乗り切っている息子、ただのおっさんになってしまった初期の息子、パンチドランカーになっている息子、いろんな息子が「最強の息子」という称号を手にするためだけに闘いの場に集まるのだ。私はそこで初めて息子たちの前に姿を現し、車椅子から立ち上がって涙を流しなら絶叫する。 「私の愛する息子たちよ、闘いはやめよう。今日は何の日か知ってるかい? そう、今日はクリスマスだよ。クリスマスを楽しもう! ずっと会いたかった! 今日は集まってくれてありがとう! 息子たちよ! メリークリスマス! メリークリスマス!」  息子たちも大粒の涙を流しながら「お父さん! メリークリスマス!」の大合唱となる。私と息子たちは熱い抱擁を交わし、私は息子たちに抱きしめられながらその場で死ぬ。こんなに幸せなことはない。  これが私が考えることのできる「理想のクリスマス」である。軽く想像しただけなのに泣いてしまった。渋谷の街の光が涙でぼやけて見えた。
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子供の頃のクリスマスを思い出してみる
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死にたい夜にかぎって

もの悲しくもユーモア溢れる文体で実体験を綴る“野良の偉才”、己の辱を晒してついにデビュー!

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