サンタの格好をしたストリップ嬢のおっぱいに「メリークリスマス」とつぶやいた夜――爪切男のタクシー×ハンター【第十六話】
自分が子供の頃のクリスマスを思い出してみる。
両親が離婚したことにより、物心ついた時に母親はいなかった。親父によって母親の写真は一枚残らず捨てられ、私は母親の顔を知らないまま育てられた。私を強くたくましく育てようとする体育会系の父のスパルタ教育。母親のいない私を不憫に思い、わがままを何でも聞いてやろうとする祖父母の甘やかし教育。そんな二つの教育方針で私は育てられた。現在の私が、礼を重んじる厳格さとどうしようもない甘えん坊という性格を併せ持つことになったのは、幼少期の飴と鞭の教育が影響していると思われる。おかげで風俗で散々赤ちゃんプレイに興じた帰りに、ラブホテルの受付のおばちゃんに「ありがとうございました!」と一礼をしてしまう大人になってしまった。どうしてくれるのだ。
祖父母も祖父母で変わった人たちだった。
祖父は酒癖が非常に悪く、そのせいでトラブルをよく起こす人だった。中でも一番のトラブルは、私の地元にある神聖な祠を、飲酒運転による軽トラでの特攻で大破させたことだ。その祠は、奈良か平安時代の偉い坊さんが、地域の人々を困らせていた悪い妖怪たちを封じ込めていたもので、祖父によって妖怪たちは千年を超える封印から解放された。その年、近隣のダムが干上がりかけるほどの深刻な水不足に地元は襲われ、老人たちはその水不足を妖怪の仕業だと断定した。妖怪を解放した祖父は村八分に遭い、うどん屋でうどんを頼んでもうどんを出してもらえない程にイジメられた。
祖母は八千草薫によく似ていて、問題を起こす祖父のことを優しく受け止める菩薩のような女性だったのだが、終戦間もない頃に暴徒化していた男に襲われた苦い過去があるらしく、その男に顔が似ているからという理由でサザンの桑田佳祐のことを毛嫌いしており、桑田がTVに映るたびに般若のような恐ろしい形相でチャンネルを変えていた。自分の愛する女に手をかけたという理由で祖父も桑田のことを嫌っていたので、我が家では祖父母の前で「サザン」と「桑田佳祐」という言葉は禁句であった。
『死にたい夜にかぎって』 もの悲しくもユーモア溢れる文体で実体験を綴る“野良の偉才”、己の辱を晒してついにデビュー! |
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