私がケータイを忘れたら

 伊坂幸太郎『PK』を読んで、
思わずインスパイアされた
くだりがある。

 少々長くなるが、引用したい。

「世の中で起きている、『原因と結果』って、本当に不可解でしょ。そのたった一つの殺人事件が、一千万人の死者を出す世界大戦結びつくんだよ」作家はそこで、第一次世界大戦がスペイン風邪を蔓延させる要因となったことを思い出す。そこまで広げれば、つまり(サラエボでの)皇太子暗殺が、スペイン風邪の流行にまで繋がったことになるわけで……(後略)

 つまり、

「小さな変化の積み重ねが、
まったく予想しない、
世界の変化に繋がる」

(↑も『PK』から引用)わけだ。

 たしかに、まったくもって
そのとおりだと思う。

 たとえば、

私が家に携帯電話を忘れて、取りに戻ったことによって予定よりも一本遅い山手線に乗ったとする。

新宿駅に着いて、私の前の席が二つ空いて、私は悩んだすえ向かって右側の席に座ったとする。

次の代々木駅で、私の左となり側の席が空いて、そこにフリーター風のチャラいニイちゃんが座ったとする。

そのニイちゃんは、前に人が立っているにもかかわらず横柄に脚を組み、スマートフォンをいじっている。

ニイちゃんの組んだ脚が私のズボンに当たり、泥がつく。思わずイラっときた私は、その組んだ脚をほぼワザとに近いかたちで蹴り上げながら、渋谷駅で降りようとする。

すると、そのニイちゃんは予想以上にキレやすい性格だったようで、「待てよコラ!」と立ち上がり、私の胸ぐらをつかみ、電車のドア付近で小競り合いにまで発展する。

小競り合いのすえ、私は電車とプラットフォームの隙間に落ちてしまい、電車が30分近く止まってしまう。

その電車には、某テレビ局の就職最終面接を控えた大学生が同乗していた。

その大学生は、電車が30分遅延したせいで最終面接に遅刻してしまい、某テレビ局からは不採用の通知が来て、第二志望の某映画会社に就職する。

その大学生は15年後、ある一本の映画のプロデュースをつとめることになる。

その映画は高度成長期の日本が舞台で、日本アカデミー賞を取るほどの大ヒットをはたしたが、登場人物が煙草をポイポイ捨てまくる、時代にリアルなシーンが社会問題ともなり、嫌煙の風潮が一気にちまたへと広がっていく。

時の宰相が猛烈な嫌煙家だったことも手伝い、煙草をマリファナ同様に法律違反とする法案が国会で可決される。

百人にもおよぶ愛煙家によって、ディズニーランドで煙草をぷかぷか吸ってはポイ捨てする、というデモ運動が行われ、機動隊までもが派遣される、ちょっとした事件が勃発する。

その風景をたまたまアメリカから来日していた政府高官が目撃していた。

元々、嫌日家であったその政府高官は、「なんて野蛮な国なんだジャパン!」と、つぶやきながら、日本嫌いにますます拍車をかけていく。

5年後、その政府高官はアメリカの大統領に就任する。そして、経済摩擦ほかで険悪な関係を極めつつあった日本を切り捨てようと、
日米安保条約を破棄してしまう。

 そこからは、もう私の想像を超える世界だ。

 だが、一つこと言えることは、

私が携帯電話を
家に忘れたことが
日米安保条約の破棄
へと繋がる

のである。

 そんなとき、一方のは、

渋谷の喫茶店「TOP」で、
仕事の打ち合わせ相手に
すっぽかされ、
急に時間が空いたから
パチンコでもすっか、と
その斜め前にあるパチンコ屋に入り、
二つ空いていた台の
どちらを取るか、悩んだあげく、
右側の台を選び、
600回転確変なしのどツボにハマり、
対して左となりの台は
20回連続の大連チャンを
引き当てている

のであった。

PROFILE

山田ゴメス
山田ゴメス
1962年大阪府生まれ。マルチライター。エロからファッション、音楽&美術評論まで幅広く精通。西紋啓詞名義でイラストレーターとしても活躍。著書に『「若い人と話が合わない」と思ったら読む本』(日本実業出版社)など
『「若い人と話が合わない」と思ったら読む本』(日本実業出版社)
『「若い人と話が合わない」と思ったら読む本』(日本実業出版社)
OL、学生、フリーター、キャバ嬢……1000人以上のナマの声からあぶり出された、オヤジらしく「モテる」話し方のマナーとコツを教えます

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