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土下座する父の姿は人間らしくて美しかった――爪切男のタクシー×ハンター【第十話】

私が中学生の時、そんな親父が警察に捕まった。 罪状は「車の当て逃げ」だった。あの化け物のように強い父が逃げたのだ。私のエアガンからも逃げなかった父が逃げた。対向車と衝突事故を起こし、車から降りてきた相手と話し合うことをせずに逃げた。相手の怪我が軽傷だったのは不幸中の幸いだったが、逃げたのがとにかくマズかった。事故当日、いつもは開けっ放しにしている車庫のシャッターが一日中降りていた。そのことを不審に思った私と祖母がシャッターを開けてみると、私たちの目の前に、フロント部分が大破した父の愛車が現れた。私たちは何も見なかったことにして、無言でシャッターを降ろした。その日の夕食で家族の間に会話は無かった。 その日の深夜、見慣れない男性二人が我が家を尋ねてきた。直感で警察が来たと思った私は、来客が通された応接間の扉を軽く開け、父の逮捕の瞬間を今か今かと待ち続けた。父には悪いが、多感な時期であった私は、人が逮捕される瞬間を見たいという欲望に勝てなかった。そんな私の目に意外な光景が飛び込んできた。地面に額を擦り付けて土下座をする父の姿だ。父が土下座をしていた相手は警察ではなく、父の友人と、そのお父さんである県議会議員のお偉い様だった。「貴方のお力で、何とかこの件を穏便に済ませてください!」。父は泣きながら懇願していた。父は私の存在に気付いたようだったが、気にせず頭を下げ続けた。父のことを哀れには思わなかった。誤解される言い方にはなるが、自分の汚さをさらけ出して土下座する父の姿は人間らしさに溢れていて美しかった。お父さんだって情けなくていいんだ、泣きたい時は泣いていいんだ、私も一緒に泣いていた。
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いくら県議会の実力者であっても、罪のもみ消しなどできるはずもなく…
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死にたい夜にかぎって

もの悲しくもユーモア溢れる文体で実体験を綴る“野良の偉才”、己の辱を晒してついにデビュー!

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