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土下座する父の姿は人間らしくて美しかった――爪切男のタクシー×ハンター【第十話】

いくら県議会の実力者であっても、罪のもみ消しなどできるはずもなく、父はしっかりと捕まった。執行猶予付きの判決で事なきを得たのは幸運だった。議員さんはとても良い方で「罪をもみ消せ」という最悪なお願いをされたのに、父の保釈金を払ってくれたり、父の再就職先の面倒までお世話してくれるなど、うちの家族を懇意にし続けてくれた。足を向けて寝られない程の大恩がある方に対し、うちの父は、見事に恩を仇で返してしまう。その後に行われた県議会選挙にて父は投票に行かなかった。 「親父、なんで選挙に行かなかったん?」 「だって投票日、大雨やったやんか」 「すんごい雨だったよね」 「大雨の日は外に出たくないやん」 「分かるよ」 「雨の日の冠婚葬祭も行きたくないやん」 「分かるよ」 「わしの葬式は雨が降ったら中止にしてくれ」 「分かった」 「むっちゃ怒ってたな、議員の先生」 「なんで先生に喋っちゃったん?」 「あれだけ器のでかい人なので、笑って許してくれると思ったんや」 「また罪を犯したね」 父は、大雨で投票所に行くのが面倒くさいからという実に人間らしい理由で、恩人に一票を投じることをしなかったのだ。そして私たちの恩人は落選してしまう。ところが、何をどう思ったのか、父はその事実を冗談っぽく本人に伝えてしまい、当然のごとく逆鱗に触れた。「言わないでいいことをわざわざ言ってしまう」、この性格は息子の私にちゃんと受け継がれている。
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議員さんに怒られただけでこの件は決着をみなかった
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死にたい夜にかぎって

もの悲しくもユーモア溢れる文体で実体験を綴る“野良の偉才”、己の辱を晒してついにデビュー!

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