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土下座する父の姿は人間らしくて美しかった――爪切男のタクシー×ハンター【第十話】

議員さんに怒られただけでこの件は決着をみなかった。怒りに燃えた議員さんは、次の選挙で見事に返り咲き当選を果たし、自分の政治家生命の全てをかけて国道計画の見直しを行った。変更前の計画では、我が家が所有する畑に国道が走ることになっており、国からたくさんのお金をもらい畑を手放すことになっていた。ところが、見直された計画書では、不自然なほどに我が家の畑を避けて走る国道の図があった。我が家の畑を避ける為だけに無理なコース取りをした結果、F1のコースのような急激なL字カーブが誕生し、そのカーブは「魔のカーブ」と言われる交通事故多発地帯となった。 「俺は罪を犯したが、この道を作った。男なら道を作れ。道を作らない男は男じゃない」 目の前に広がる「魔のカーブ」を前にして前科者の父がこう言った。意味はよく分からない。分からないがやけに胸に響く言葉だった。私の父はどうしようもない男だが、この世に「魔のカーブ」を生み出した男だ。それだけは尊敬に値する男であるし、罪を犯した後、憑き物が取れたようによく笑うようになった人間らしい父が私は好きだ。罪を犯すのはいけないことだが、罪を犯さないと分からないことだってあるんじゃないかと思う。どんな人生にだって無理やり意味を持たせればいい。 私たちが毎日歩いてる道。最初からそこにあることが当たり前のように考えてしまうが、道は最初からそこにあったものではない。そこに道を作ろうと思った人がいて、実際に道を作った職人さんがいる。そこに道がある理由が良くも悪くもあるはずなのだ。何も考えずにボンヤリとただ道を歩くより、ここに道があることの意味を考えながら散歩するのなんて素敵じゃないか。そうだ、今日はタクシーで帰るのはやめにしよう。早くシャチによく似た顔の女を探して、我が家までのんびりと歩いて帰ろう。その途中で稲田君に電話をするのだ。留置所にいるから電話がつながることはないだろうけど、電話をかけるだけでいい。つながらない電話にだって意味があるのだから。タクシーハンターという名前の連載でもタクシーに乗る必要はないのだから。 文/爪 切男 ’79年生まれ。会社員。ブログ「小野真弓と今年中にラウンドワンに行きたい」が人気。犬が好き。 https://twitter.com/tsumekiriman イラスト/ポテチ光秀 ’85年生まれ。漫画家。「オモコロ」で「有刺鉄線ミカワ」など連載中。鳥が好き。 https://twitter.com/pote_mitsu ※さまざまなタクシー運転手との出会いと別れを繰り返し、その密室での刹那のやりとりから学んだことを綴ってきた当連載『タクシー×ハンター』がついに書籍化。タクシー運転手とのエピソードを大幅にカットし、“新宿で唾を売る女”アスカとの同棲生活を軸にひとつの物語として再構築した青春私小説『死にたい夜にかぎって』が好評発売中
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死にたい夜にかぎって

もの悲しくもユーモア溢れる文体で実体験を綴る“野良の偉才”、己の辱を晒してついにデビュー!

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