更新日:2017年11月15日 18:02
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警戒をとくことには成功したが、課題も残った安倍・トランプ「ゴルフ」外交【評論家・江崎道朗】

 加えて安倍政権を支える与党幹部が親中派だと見えていることも、この「警戒心」を増幅している。どのような人事をするかで、その政権の政策を占うのは普通のことだ。  まず、安倍政権は、与党自民党のトップ(幹事長)に、二階俊博氏を指名している。ご本人からすれば心外だろうが、二階氏はかつて親中派と呼ばれていた。連立与党の公明党も、支持母体の創価学会が中国と親しいことは有名だ。よって外国から見れば、安倍政権は「親中」政権だと分析される。  しかも、これだけ中国が軍事的に台頭し、中国の軍艦や戦闘機が連日のように尖閣諸島周辺海域を脅かしているのに、安倍政権は防衛費をほとんど増やしていない(補正予算に防衛費を盛り込むという異例の手法を使うなど、歴代政権に比べれば安倍政権は相当努力しているが)。  このため、安倍総理は実は隠れ親中派ではないのかと、マティス国防長官の周辺は疑っていたと聞く。こうした事情を踏まえると、トランプ大統領が2月10日の記者会見で安倍首相に向かい、「この機会に、あなたと日本の国民が米軍駐留を受け入れてくれていることに感謝する」と語りかけた言葉を額面通りに受け止めていいのか、微妙ではないだろうか。

日本はアメリカでもっとも雇用を拡大していた

 安倍総理を厚遇したのは、経済力がある日本を中国に追いやらないようにしておく必要があると、トランプ政権が判断した可能性もある。トランプ政権にとって最大の課題は、アメリカ国内の雇用の拡大だ。そして「アメリカでもっとも雇用を拡大している国は日本」なのだ。  1月23日、みずほ総合研究所は『「トランプ政権の誕生」~米国は何をしようとしているのか 日本はどうすべきか~』と題する報告書を公表し、以下のようなデータを示した。国籍別の製造業雇用で見ると、以下のとおり。 ①日本 38.3万人 ②ドイツ 31.4万人 ③英国 24.9万人 ④カナダ 23.9万人 ⑤フランス 20.5万人 ⑥スイス 19.6万人 ⑦アイルランド 14.4万人 ⑧オランダ 9.8万人 ⑨イタリア 8.3万人 ⑩スウェーデン 7.5万人  日本は断トツでトップだ。  もっと雇用を拡大していることを示すデータもある。経済産業省「第45回海外事業活動基本調査結果概要-平成26(2014)年度」によれば、日本企業のアメリカにおける現地法人の常時従業者数は、65万7648人に及ぶ。この場合の現地法人とは、日本側出資比率が10%以上の海外法人及び日本側出資比率が50%超の海外子会社が50%超の出資を行っている海外法人を指す。  どちらにせよ、トランプ政権の最優先課題であるアメリカ国内の雇用拡大に最も貢献している国は、日本だったのだ。  こうした実績と、安倍総理本人の個人的な力量のおかげで今回、トランプ大統領との良好な関係を構築することに成功したといえよう。
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尖閣の実効支配に踏み切らない日本への疑念
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(えざき・みちお)1962年、東京都生まれ。九州大学文学部哲学科卒業後、石原慎太郎衆議院議員の政策担当秘書など、複数の国会議員政策スタッフを務め、安全保障やインテリジェンス、近現代史研究に従事。主な著書に『知りたくないではすまされない』(KADOKAWA)、『コミンテルンの謀略と日本の敗戦』『日本占領と「敗戦革命」の危機』『朝鮮戦争と日本・台湾「侵略」工作』『緒方竹虎と日本のインテリジェンス』(いずれもPHP新書)、『日本外務省はソ連の対米工作を知っていた』『インテリジェンスで読み解く 米中と経済安保』(いずれも扶桑社)ほか多数。公式サイト、ツイッター@ezakimichio

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 ’17年、トランプ米大統領は中国を競争相手とみなす「国家安全保障戦略」を策定し、中国に貿易戦争を仕掛けた。日本は「米中対立」の狭間にありながら、明確な戦略を持ち合わせていない。そもそも中国を「脅威」だと明言すらしていないのだ。

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