更新日:2017年11月15日 18:02
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警戒をとくことには成功したが、課題も残った安倍・トランプ「ゴルフ」外交【評論家・江崎道朗】

尖閣の実効支配に踏み切らない日本への疑念

 しかしトランプはあくまで「アメリカ第一」であって日本の国益を考えてくれるわけではない。そして、日米同盟に関して言えば、今回の「日米共同声明」で安心するのは早い。  2月10日の「共同声明」では、こう記されている。 《揺らぐことのない日米同盟はアジア太平洋地域における平和、繁栄及び自由の礎である。核及び通常戦力の双方によるあらゆる種類の米国の軍事力を使った日本の防衛に対する米国のコミットメントは揺るぎない。アジア太平洋地域において厳しさを増す安全保障環境の中で、米国は地域におけるプレゼンスを強化し、日本は同盟におけるより大きな役割及び責任を果たす。日米両国は、2015年の「日米防衛協力のための指針」で示されたように、引き続き防衛協力を実施し、拡大する。》  では、2015年の「日米防衛協力のための指針」にはどう書いてあるのかと言えば、「日本に対する武力攻撃が発生した場合」に、主体的に対応するのは日本だ。アメリカは「支援・補完」する立場だ。 《自衛隊は、日本及びその周辺海空域並びに海空域の接近経路における防勢作戦を主体的に実施する。米国は、日本と緊密に調整し、適切な支援を行う。米軍は、日本を防衛するため、自衛隊を支援し及び補完する。》  しかも、米軍が自衛隊を「支援・補完」するためには、米軍が支援に来るための必要な基盤整備を日本側が実施することになっている。 《米国は、日本に駐留する兵力を含む前方展開兵力を運用し、所要に応じその他のあらゆる地域からの増援兵力を投入する。日本は、これらの部隊展開を円滑にするために必要な基盤を確立し及び維持する。》  この「基盤」とは、例えば、敵国からの大量のミサイル攻撃にも耐えることができるよう、空港や港湾、道路などを強化することや、武器・弾薬・燃料などの補給体制の構築などがある。  ところが、この「基盤」整備はほとんどできておらず、米軍の関係者からは、「日本はいざというとき、米軍に助けに来てもらいたいと思っていないのではないか」という声も聞こえてくるほどだ。  尖閣を日米安保の適用対象にしたことを成果と見なす意見もあるが、そもそも2012年の自民党の衆議院選挙公約に盛り込んだ「尖閣諸島に公務員を常駐させる」といった実効支配の強化策も実施していない。米軍の現場からは、「日本政府が尖閣の実効支配に踏み切らない以上、米軍としてもどうしようもない」というのだ。  今回、「蜜月」ぶりを演出することに成功したが、アメリカ第一のトランプが、日本の国益を守ってくれるわけではない。そして、国内が疲弊して、そんな余力もなくなりつつあるから、アメリカ第一を掲げるトランプが選ばれたのだ。  日本は、自分の国を自分で守るしかない。今回の日米の蜜月ぶりに安心して防衛努力を怠るようなことがあれば、それは日本にとってマイナスにしかならないだろう。 【江崎道朗】 1962年、東京都生まれ。評論家。九州大学文学部哲学科を卒業後、月刊誌編集長、団体職員、国会議員政策スタッフを務め、外交・安全保障の政策提案に取り組む。著書に『アメリカ側から見た東京裁判史観の虚妄』(祥伝社)、『マスコミが報じないトランプ台頭の秘密』(青林堂)、『コミンテルンとルーズヴェルトの時限爆弾』(展転社)など
(えざき・みちお)1962年、東京都生まれ。九州大学文学部哲学科卒業後、石原慎太郎衆議院議員の政策担当秘書など、複数の国会議員政策スタッフを務め、安全保障やインテリジェンス、近現代史研究に従事。主な著書に『知りたくないではすまされない』(KADOKAWA)、『コミンテルンの謀略と日本の敗戦』『日本占領と「敗戦革命」の危機』『朝鮮戦争と日本・台湾「侵略」工作』『緒方竹虎と日本のインテリジェンス』(いずれもPHP新書)、『日本外務省はソ連の対米工作を知っていた』『インテリジェンスで読み解く 米中と経済安保』(いずれも扶桑社)ほか多数。公式サイト、ツイッター@ezakimichio

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 ’17年、トランプ米大統領は中国を競争相手とみなす「国家安全保障戦略」を策定し、中国に貿易戦争を仕掛けた。日本は「米中対立」の狭間にありながら、明確な戦略を持ち合わせていない。そもそも中国を「脅威」だと明言すらしていないのだ。

 日本の経済安全保障を確立するためには、国際情勢を正確に分析し、時代に即した戦略立案が喫緊の課題である。江崎氏の最新刊『インテリジェンスで読み解く 米中と経済安保』は、公刊情報を読み解くことで日本のあるべき「対中戦略」「経済安全保障」について独自の視座を提供している。江崎氏の正鵠を射た分析で、インテリジェンスに関する実践的な入門書として必読の一冊と言えよう。
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