自衛隊は国籍不明のテロリストより弱い!?
自衛隊がその本気の能力を使えるためには、大前提として「防衛出動命令」が必要です。事態対処法では、その発令の条件として「我が国に対する国または国に準ずる組織からの急迫不正の武力攻撃があること。他に取るべき手段がないこと。その実力行使は必要最低限にとどめること」を必須条件にしています。また基本的に発令には国会での承認を要します。緊急の場合は事後でもいいのですが、国会で承認されなければ部隊は撤収しなければなりません。
ところが、この「国または国に準ずる組織の武力行使」という条件が曲者です。軍艦がはっきりとわかるように旗をかかげ、バ~ンとミサイルを打ち込み、軍服をきた軍人が大量に侵攻してきたら、それは国による武力行使です。政府も迷いなく防衛出動を自衛隊に命じることでしょう。そういう事態であれば、事前に部隊を展開することも可能です。
しかし、偽装漁船などで「一般人風」の集団が行う破壊工作や、国家やその組織が声明を出さない攻撃もありえます。この場合、どんなに大きな破壊活動がなされても、たとえば、米国の9.11のような同時多発テロを起こされても、それは国内犯罪であり、自衛隊は対処できません。警察と海保で対応するしかないのです。
自衛隊は後方で警察と海保の周りで避難する人たちの輸送や、後方支援を行うしかないのです。自衛隊には犯罪者を追跡する権限も、犯罪者を逮捕する権限もありません。国家の武力行使でないかたちで行われる破壊活動は、化学兵器を持ち込もうが、火力の高いミサイルを撃ち込もうが、それはただの犯罪です。警察で手におえなくなると治安出動が命じられる場合がありますが、治安出動は警察官職務執行法7条の準用になります。簡単にいうと「警察程度の力でやれ」ということなので、正当防衛射撃と最低限の武器使用しか認められません。自衛隊は出て行っても本気で対処できないのです。
ここが悩ましいところです。
事前にどこかの国家が侵略を意図した大規模な侵攻の準備をしていたりした場合は、こちらも準備ができます。でも、小規模で偽装された漁船などで行われる破壊工作の場合、国による武力攻撃なのか、テロなのかの線引きが難しく、疑わしいものはこれまでの対処から考えるとすべて国内犯罪扱いになります。どこかの国が侵攻してきたという明確な事実があって初めて、国会の承認が出せるということです。防衛出動の定義は難しいのです。
「国による侵略じゃないと自衛隊は国民を守れない」という仕組みは今も法律上は変わっていません。能力はあっても、法律で自衛隊が本気を出す「防衛出動・自衛権発動」の前提条件が極めてが限られているため、見極められない間は動けない可能性が高いのです。
数千人の人が中毒症状に苦しんだあの地下鉄サリン事件というテロでも、化学防護服を警視庁に貸し出すだけで、上九一色村への強制捜査も警察対処することになりました。二十数年経った今も、現状はあの当時とほとんど変わっていないのです。
外国による侵攻かどうかわからない小集団での破壊活動の場合、自衛隊にできることは110番だけってことになるのです。<文/小笠原理恵>
おがさわら・りえ◎国防ジャーナリスト、自衛官守る会代表。著書に『自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う』(扶桑社新書)。『月刊Hanada』『正論』『WiLL』『夕刊フジ』等にも寄稿する。雅号・静苑。@riekabot
おがさわら・りえ◎国防ジャーナリスト、自衛官守る会代表。著書に『自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う』(扶桑社新書)。『月刊Hanada』『正論』『WiLL』『夕刊フジ』等にも寄稿する。雅号・静苑。@riekabot
『自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う』 日本の安全保障を担う自衛隊員が、理不尽な環境で日々の激務に耐え忍んでいる…… ![]() ![]() |
1
2
この連載の前回記事
【関連キーワードから記事を探す】
日本のパレスチナ支援“100億円のゆくえ”を、政府が確かめようとしない理由
主要先進国はなぜパレスチナへの資金援助を見直したのか。“間接的なテロ支援”とする主張の背景
日本国民の税金が「テロに使われている」…パレスチナへの支援金“2,400億円”の行方とは
ニュースで報じない「ハマスの最終目的」とは?日本のメディアが“中立であるフリもしない”理由
「テロリストの主張は仮に正論だとしても認めない」との態度を示すべきだ/倉山満
台湾“草食系男性”増加で変わる成人用品市場「約67.5万円のラブドールが週に70体売れた」驚きの実態
「トランプ関税」で激変する世界経済と中国リスク。“中国依存度が高い”ユニクロ、無印良品の命運は
ハワイより近くて安い「中国のドバイ」と呼ばれる海南島に直行便で上陸。中国式“機内サービス”の驚きの充実度
下着姿で踊る女性キャスト、高額アフターも!? 歌舞伎町の中国系キャバが怪しすぎた
「おかず1個で米を5合食べる日本人」が中国で“1億回再生”され一躍スターに。本人を直撃
秋葉原駅「爆弾」騒ぎ、寺社「油被害」事件は大規模テロの予行練習か【評論家・江崎道朗】
北朝鮮ミサイル危機で頼るべきは自衛隊でなく地方自治体【評論家・江崎道朗】
自衛隊は国籍不明のテロリストより弱い!?
中国侵略は始まっている!? 沖縄の米軍基地撤退運動への違和感[漫画家・孫向文]
南シナ海問題で中国政府が煽る民衆デモの正体【中国人漫画家・孫向文】
「敵基地攻撃能力」という落とし穴。リアルな国防に勇ましい言葉は不要<慶大名誉教授・法学者 小林節氏>
朝鮮半島有事の“武装難民”に自衛隊は発砲できない。不幸な事件がおこる前に…
止められない北朝鮮のミサイル発射…国防は永世中立国スイスの核武装論に学べ【長尾一紘】
Jアラートが鳴ったあとの数分で生死が決まる
小学校で教えられていなかった「自衛隊の本当の役割」――永田町の安全保障のエキスパートが解説
安倍首相「自衛隊の憲法明記」発言で9条はどう変わるか?――憲法学者が3つの学説から検証
安倍総理「9条改憲」をどう読み解くか。日本人だけが知らない戦時国際法とは?【評論家・江崎道朗】
自衛隊は国籍不明のテロリストより弱い!?
あまりにショボイ自衛隊の緊急キット。隊員が撃たれても助けられない!?
安保国会終盤で再注目される三島由紀夫の「自衛隊二分論」とは?
日本にとってウクライナ侵攻は他人事ではない! 高校チュータイ外交官が警鐘
日本のパレスチナ支援“100億円のゆくえ”を、政府が確かめようとしない理由
主要先進国はなぜパレスチナへの資金援助を見直したのか。“間接的なテロ支援”とする主張の背景
日本人の大半がウクライナ侵略を「予測できなかった」理由が絶望的だった
ハマスの「パレスチナ人を守る」は嘘だといえる理由。女性・子供を利用する“ヤバい思想”とは
安倍総理「9条改憲」をどう読み解くか。日本人だけが知らない戦時国際法とは?【評論家・江崎道朗】
自衛隊は国籍不明のテロリストより弱い!?
あまりにショボイ自衛隊の緊急キット。隊員が撃たれても助けられない!?
副業にことごとく失敗、損失は数百万円に…追い詰められた元営業マンが「一発逆転」して沖縄に移住できたワケ
有名MVにも登場。沖縄の人気ハンバーガーチェーン「巨大看板リニューアル」まさかの大反響の顛末
六本木の「バーレスク東京」が沖縄に進出。“プレイングマネージャー”に聞く、経緯と展望
沖縄県で“若者の大麻汚染”が拡大中「高校生の取り分は大麻1gあたり2000円」
「沖縄 vs アジアリゾート」どっちが得? 予算7万円以内のベストな場所を、旅のプロが選んだ
手取り15万円、ブラック職場…半年以内に1割が辞める「定年自衛官」のキツすぎる再就職事情
「汚れた東京湾を8キロ泳いだ」防衛大卒の女性が語る学生生活。学内の“恋愛事情”も
「即応予備自衛官」の待遇改善は進んだのか?給与の支払いまで半年かかった例も…
28歳・元自衛官が民間企業に転職したら後悔の嵐だった理由
現役自衛官はなぜ勲章をつけていないのか?海外軍人と大違いの実情
この記者は、他にもこんな記事を書いています