更新日:2022年08月28日 09:27
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秋葉原駅「爆弾」騒ぎ、寺社「油被害」事件は大規模テロの予行練習か【評論家・江崎道朗】

大規模テロの予行演習か

秋葉原駅「爆弾」騒ぎ、寺社「油被害」事件は大規模テロの予行練習か【評論家・江崎道朗】 そんな疑問にヒントをくれたのが、4月中旬に来日した元米軍のテロの専門家であった。中東でテロ対策を担当していたC氏は、一連の「神社に対する油被害」事件は、本格的なテロの予行練習だと見なした方がいいと指摘した。  C氏の説明はこうだ。  神社に油を撒いて、それをどれくらいの時間で発見するか。監視カメラの性能はどの程度か。  発見したとき、警察などはどのような捜査を行い、その後、どのような警備体制をとるか。  また、どの神社なら、警察の人員がどれくらい動くか。一般の国民はその捜査にどれくらい協力的か。  そもそも神社に対する油散布事件を治安当局は、どのように分析するのか。  そのような観点から、日本の治安当局の体制と能力をチェックしているのだという。  確かに警察の人員には限りがある。神社などに油を撒くだけで、多くの警察官を動かすことができることがわかれば、テロを考える勢力は意図的にそうした事件を各地で起こすだろう。そうすれば、鉄道、水道、発電所といった重要インフラ施設に対する警備が薄くなるのだから。  このように寺社「油被害」事件の背後には、朝鮮有事といった事態を想定して各地でそうした騒動を起こして治安当局の能力を調査するとともに、その能力を予め削っておこうという意図があるのかもしれない。治安当局をくたくたにして注意散漫に追い込んでおけば、いざというとき重要インフラ施設に対するテロは容易になる、というわけだ。  後方攪乱工作を仕掛けることで相手国の戦力を分散させるというのは、昔から戦いの常道だ。  しかも寺社「油被害」事件を単なる嫌がらせとして受け止めているとするならば、日本の治安当局は、相手のそうした悪意を理解できていないことになる。それは即ち、国際的なテロの手口について正確な知識を持ち合わせていないことにもなるのだ。  寺社に対する油被害事件のすべてがそうした意図に基づいて実施されているとは言わない。  単なる嫌がらせもあるかもしれないが、明治神宮のケースのように、朝鮮族の中国人がわざわざ上海から沖縄経由でやってきて、油を撒いたのだ。そこに明確な意図があると思ったほうがいい。相手を侮ってはいけない。  現在、国会で審議されている組織犯罪処罰法改正案(テロ準備罪法案)では、こうした視点からの検討も必要だろう。
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尖閣対応で疲労困憊な自衛隊と海上保安庁
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(えざき・みちお)1962年、東京都生まれ。九州大学文学部哲学科卒業後、石原慎太郎衆議院議員の政策担当秘書など、複数の国会議員政策スタッフを務め、安全保障やインテリジェンス、近現代史研究に従事。主な著書に『知りたくないではすまされない』(KADOKAWA)、『コミンテルンの謀略と日本の敗戦』『日本占領と「敗戦革命」の危機』『朝鮮戦争と日本・台湾「侵略」工作』『緒方竹虎と日本のインテリジェンス』(いずれもPHP新書)、『日本外務省はソ連の対米工作を知っていた』『インテリジェンスで読み解く 米中と経済安保』(いずれも扶桑社)ほか多数。公式サイト、ツイッター@ezakimichio

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 ’17年、トランプ米大統領は中国を競争相手とみなす「国家安全保障戦略」を策定し、中国に貿易戦争を仕掛けた。日本は「米中対立」の狭間にありながら、明確な戦略を持ち合わせていない。そもそも中国を「脅威」だと明言すらしていないのだ。

 日本の経済安全保障を確立するためには、国際情勢を正確に分析し、時代に即した戦略立案が喫緊の課題である。江崎氏の最新刊『インテリジェンスで読み解く 米中と経済安保』は、公刊情報を読み解くことで日本のあるべき「対中戦略」「経済安全保障」について独自の視座を提供している。江崎氏の正鵠を射た分析で、インテリジェンスに関する実践的な入門書として必読の一冊と言えよう。

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