貧困化するタイの日本人――月給9万円コールセンターの実態とは?
実際にコールセンターで4年働き、先日退職したばかりの男性Yさん(39)と話し、その実態を聞いてみた。
Yさんがタイに来たきっかけは「旅行で何回か来ていて、なんとなく好きだったから」。気がついたら4年が過ぎていた。これまでの仕事のキャリアは、コールセンターや飲食店のバイトなど、申し訳ないが、ほとんどキャリアらしいキャリアを築いていない。話せる語学はカタコトのタイ語とカタコトの英語。当然マニュアルありきのコールセンターで培ったものもはない。淡々とマニュアルに沿った対応するだけの業務であれば、スキルも身につかないのは当然。Yさんいわく、コールセンターでの仕事については、特にストレスもなく、満足していたという。ときに終業間際に、クレーマーに捕まるようなことはあったが、ほとんど問題のない仕事ではあった。前述したように面倒くさい日本人上司もいなかったという。3万バーツという給与でも賄えるように、5000バーツという破格のアパートで暮らし、1万5000バーツを生活費に充てた。残りの1万バーツを貯金に回していたという。Yさんは「そこまで浪費をする方でもないですから」と笑っていた。
なぜ、特段ストレスもないコールセンターを辞めたかといえば、「このまま仕事を続けてもスキルにはならないから」。現在はタイで新たな仕事を探しているという。コールセンター勤めのスキルも特にない人材の存在を、タイに進出している一般の日系企業はすでに理解しており、普通に考えてまともな転職をできる見込みはない。その次も低賃金で働かされる飲食店やコールセンターが関の山。なぜアラフォーになるまで、スキルのことを考えることはなかったのか……。
タイにいると、コールセンター勤務の日本人に会うことがしばしばある。それこそ合コンやクラブなどの遊び場でも。ただ、皆が一様、苦しい生活を表さないし、むしろ今が幸せだという人が多い。実際はタイ人と同じような生活をしながらも、ときに盛り場で発散することで、満足を得ている。
実は低賃金なのは、コールセンターだけではなく、幼稚園や日本語学校の教師なども同じ。共通するのは、特別な語学が不要な点だ。「日本語だけで働けます」という誘い文句につられて、タイに移住し、搾取されるシステムが構築されているのだ。しかし、前述したが、決して騙されているわけではない。低賃金であるが、別の幸せを見出しているのである。日本では、スキルがない彼ら場合、就ける仕事は馬車馬のような生活を強いられるだろう。そんな日本から離れて、たまに贅沢をしながら、日常はタイ人と同じ生活を選択している。
一度、幼稚園の先生たちと飲んだことがあるが、かなりの低賃金で働かされ、ストレスは相当なものだった。飲み方も激しい。あわや持ち帰られそうになった友人もいた……。
日本のブラック企業から逃れ、タイに見出した場所は一見ホワイト企業。しかし、若い年齢ならいざ知らず、30代も後半になれば、もはや日本には帰る場所はないといっていい。コンビニの仕事ですら、外国人に占拠されていれば、もはや日本で何をすることができるのだろうか。日本人が生み出す日本人難民のシステムはすでに確立されているのだ。<文・撮影/ワダタケシ>
―[ワダタケシ]―
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