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今はなきレンタルビデオ屋の“惑星”とAV、そしてケンさん――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第2話>

「ミニモミ。Fuckだぴょん!」の陳列棚に起きていた異変

ある日、事件が起こった。 いつものようにのれんの向こうに行くと、ケンさんと、あの沼行きを止められた若者、名前をコウタロウというらしいが、そのコウタロウが立っていた。いつのまにか常連仲間みたいなものになってしまった。 「どうしたの?」 そう質問すると、ケンさんは顎で最新作の棚を指し示しながらこう言った。 「だから俺はおかしいって言ったんだ」 そこには後に伝説として語られる「ミニモミ。Fuckだぴょん!」という作品が貫録たっぷりに鎮座しておられた。

身長150センチ未満のギャルが集結! 小さいくせに、よくヤリます!
— 内容(「VIDEO INSIDER JAPAN」データベースより)

この世界は、3つの出来事によってそれ以前とそれ以後に分けられたと思っている。その前後で人々の生活は一変したのだ。1つめが蒸気機関の発明による産業革命、そしてもう一つがインターネット網の発達によるIT革命、そして、三つめが「ミニモミ。Fuckだぴょん!(宇宙企画)」のリリースである。 「ミニモミ。Fuckだぴょん!」は、小さい女の子が出演するという謳い文句で製作されたが、とにかく売れた。アホみたいにヒットした。この当時、エロビデオを見ていた人で見ていない人はいないくらいのレベルでヒットした。あまりにすごすぎて、この店舗でも7本入荷されるという異例の力強い対応だったのだ。この店においてはアルマゲドンより本数が多かった。 しかも、その7本も常に大回転しており、いつも「貸し出し中」となっていた。これはなかなか準新作に落ちてこないんじゃないか、落ちてきたとしてもなかなかレンタルできないかもしれない。それならば最新作のうちにチャンスをみてレンタルしておくか、多くの常連がそう考えていた。 「おれはおかしいと思っていたんだよ、いくら人気があるからってずっと貸し出し中はおかしいだろ。7本全部だぞ」 ケンさんの鼻息は荒い。 「でもまあ、人気作ですし」 そう言って宥めるが、ケンさんは納得しない。 「たまたまタイミングが悪いだけですよ」 コウタロウもそう言うが、ケンさんはさらに興奮した。 「俺はな、昨日一日ずっとここにいて見張っていたんだ。開店から閉店までずっといた。でも1本も返ってくることはなかった。おかしいだろ?」 あんた、ずっと見張ってたんかい。頭おかしいんじゃないか。ここに? 一日? ケンさんの異常さは置いておいたとしても、現象のほうも異常である。最新作は1泊2日しか借りられない。つまり、どう考えても1日に1回はのれんの中に帰ってくる計算だ。延滞があった場合などはその限りではないが、それでも7本全部が一度も返ってこないなんてありえない。 「これはなにかとんでもねえことが起こっているな」 居並ぶ7つの「貸し出し中」の札を見つめながら、ケンさんはそう言った。そして舌を出し、自らの上唇を舐める仕草を見せた。今思うと、その決意の眼差しはまるで政府の陰謀と戦う西島秀俊のようだった。 「ついてこい!」 ケンさんは何かを決意した。スパン! と小気味良くのれんを弾いて歩き出した。僕とコウタロウも子分のようにその後ろをついていく。どこに行くのだろうか。まさかとは思うが、まさか!
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コウタロウが持っていた銀色の包みは……
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