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美しく可憐な女子高生が私の高級自転車を盗もうとしていた――爪切男のタクシー×ハンター【第十七話】

志垣太郎によく似た濃い顔の運転手は渋々タクシーを発進させ、前を行く自転車泥棒を追い始めた。自転車泥棒は快調なスピードでネオン煌めく夜の街を駆け抜けていく。あっという間に見失うことも懸念されたが、幸いなことに、深夜は車の流れも非常にスムーズなので、タクシーはぴったりと自転車泥棒のお尻を逃さず尾行を続けていた。最初は乗り気じゃなかった運転手も、次第に楽しくなってきたのか鼻歌交じりで運転をしている。いい気なもんだ。 思い返してみれば、自転車泥棒に関してはどうしても忘れることのできない苦い思い出がある。 高校二年生の秋、文化祭の準備で帰宅が夜の9時過ぎになった日のこと。場所は最寄駅の自転車置き場だった。当時の私は「家が貧乏でも自転車だけは格好良い物に乗りたい」という変な意地から、16段階の変速ギアが搭載された無駄に高価な自転車に乗っていた。ぼんやりとした薄オレンジ色に光を放つ自転車置き場のボロ照明。その光にスポットライトのように照らされながら、私の真っ赤な自転車を盗もうとしている茶髪の女がいた。彼女の顔には見覚えがある。私が中学の時に好きだった女の子だった。 女優の浅野温子によく似ていた彼女は、中学生とは思えない大人びた佇まいと美貌を兼ね備えており、男子からの人気はすごかった。人気はすごかったのだが、あまりに美人過ぎるので容易に声をかけられない雰囲気があり、男子を寄せ付けなかった。中学三年の時、席替えでそんな彼女と隣同士になった。ある日の退屈な社会の授業中、彼女の方から突然話しかけてきた。
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「なぁなぁ? あんたってゲームとかする人?」
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死にたい夜にかぎって

もの悲しくもユーモア溢れる文体で実体験を綴る“野良の偉才”、己の辱を晒してついにデビュー!

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