更新日:2018年04月06日 19:53
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美しく可憐な女子高生が私の高級自転車を盗もうとしていた――爪切男のタクシー×ハンター【第十七話】

「なぁなぁ? あんたってゲームとかする人?」 「え……そこそこはするけど……」 「テトリスってやっとる? あのパズルゲームの」 「……うん、やっとるよ」 「強い?」 「……そこそこは強い」 「じゃあ明日ゲームボーイ持って来てよ! 対戦しよや! 女の子じゃ弱すぎて相手にならんのよね~」 どうして私に話しかけてくれたのかは分からない。ゲームオタクにでも見えたのだろうか。翌日、狐につままれたような気持ちで私はゲームボーイを持参した。彼女はニッコリと笑ってゲームボーイを取り出した。その日から二人のテトリスが始まった。授業中に先生の目を盗んでは対戦を繰り返した。自分で「強い」と豪語するだけあって、普通の女子よりは強かったが、私の敵ではなかった。彼女は、負けた時は下唇を思いっきり噛んで悔しがり、勝った時は万歳三唱をして喜んだ。可愛かった。彼女が落とすテトリス棒の軌跡は、今まで見たどんなテトリス棒よりも美しかった。私は恋に落ちていた。何度か告白しようとも思い立ったが、当時の私の顔はひどいニキビに覆われており、その醜悪な顔が告白する勇気を奪った。 「告白して嫌われるぐらいなら、一生テトリスを一緒にしていたい」 自分の気持ちに踏ん切りをつけた私は、卒業まで彼女とのテトリス対戦を楽しんだ。一緒の高校に通える奇跡が起きないかとも期待したが、壊滅的に頭が悪かった彼女は、県内でも札付きの不良が通う工業高校に進学した。学年に女生徒は三人ぐらいしかいないらしく、ただでさえ可愛い彼女が女に飢えた不良共の餌食になることは容易に想像がつき、とても悲しい気持ちになった。不良達の極太テトリス棒を入れられて喘いでいる彼女を妄想して布団の中で泣いた。高校進学と同時に彼女と会うことはなくなり、恋心も次第に冷めていった。恋が終わるのと時を同じくして、私の顔のニキビは無くなった。 そんな彼女が私の自転車を盗もうとしている。どうしたらいいか分からずに立ちすくんでいる私の気配に気づいた彼女は、敵意むき出しの表情でこちらを睨みつけてきた。だが、すぐに私のことを思い出した。 「わぁ! 久しぶりじゃん!」 「……久しぶり、何してんの?」 「自転車盗んでるの」 「なんで? 自分の自転車は?」 「道路に停めてたんやけど、警察に持ってかれちゃった」 「……そっか、けっこう良いやつ盗んでるね」 「どうせ盗むんなら良いやつ盗みたいやん」 「……手伝ってあげるわ」 「ほんまに? ありがとう!」
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かくして、私は自分で自分の自転車を盗むことと相成った
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死にたい夜にかぎって

もの悲しくもユーモア溢れる文体で実体験を綴る“野良の偉才”、己の辱を晒してついにデビュー!

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