美しく可憐な女子高生が私の高級自転車を盗もうとしていた――爪切男のタクシー×ハンター【第十七話】
私に断る理由などなかった。生まれて初めての女の子との二人乗り自転車。しかも自分の大好きな彼女を後ろに乗せてだ。一緒に泥棒を働き、そのお祝いに熱々のたこ焼きを食べる。これ以上の晩御飯があろうか。私の為に食事を作って待っている祖母には悪いが、私はたこ焼きが食べたかった。世界で一番美味しいたこ焼きを。後輪に二人乗り用のステップを取り付ける。彼女は私の両肩にすいっと手を置いてステップにまたがる。やけに慣れた動きだ。きっと色んな男とこんな風に二人乗りをするので慣れてるんだろうなと思ったが、今は考えないようにする。二人の自転車は走り出す。先ほどは腕に感じた彼女の胸の感触を今度はしっかりと背中に感じながら。田んぼと畑しかないド田舎の風景が輝いて見えた。目指すは夢のたこ焼き屋だ。
私の人生において、幸せというものは本当に長く続かない。
あまりにも堂々と自転車泥棒をしていた私達は、その様子をしっかり見ていた自転車置場の係員のジジイに通報され、駆け付けた警察にあっさりと捕まってしまった。警察署まで連行された私達は簡単な取り調べを受けた。学校と親に連絡されて「もう二度としません」という反省文の一つでも書けば終わるようなことだったが、警察が自転車の防犯登録を照会した結果、私が、自分で自分の自転車を窃盗したことが明るみに出てしまい、話は俄然ややこしくなった。「なぜ? なぜなんだ?」と詰め寄る警察に、適当な理由を並べ立ててはみたものの、納得してもらえる答えなどありはしない。もう嘘をつき通すことができなくなった私は真実を話すことにした。彼女の為を思い、自分の自転車を壊したことが分かれば、彼女は私の気持ちに感動して好きになってくれるかもしれない。本当にわずかな可能性ではあるけども。それに真実が分かれば彼女の泥棒の罪も少しは軽くなるだろう。所有者の私が許すのだから。
私は洗いざらい全てを話した。
「えっ……」
という彼女の一言が室内に響き渡った。沈黙が室内を包む。それだけだった。それが全てだった。終わりはいつもそんなもんだ。
程なくして警官はニヤニヤしながら「この娘を守ろうと思って自分の自転車壊したんだね~」といやらしく言った。彼女は何も答えなかった。
『死にたい夜にかぎって』 もの悲しくもユーモア溢れる文体で実体験を綴る“野良の偉才”、己の辱を晒してついにデビュー! |
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