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美しく可憐な女子高生が私の高級自転車を盗もうとしていた――爪切男のタクシー×ハンター【第十七話】

かくして、私は自分で自分の自転車を盗むことと相成った。彼女が苦戦していたのは、後輪に付いていたチェーン型のナンバーロックだった。力任せに切れる代物ではない。その強度は私が一番知っている。もちろん私は暗証番号を知っているので、やろうと思えばすぐに解除ができたのだが、少しだけドラマチックな演出をした。まずは力技でチェーンを切ろうとするもあえなく失敗する。その後で適当に数字を入力し始めて、偶然を装ってロックを解除する。その奇跡を目の当たりにした彼女の驚く顔が見たい。暗証番号は「9465」で覚える語呂合わせは「苦しむ六つ子」である。こういう演技をするのは苦手だったが、できるだけ自然に行動した。私が鍵を開けた瞬間、目をまん丸にして驚いた彼女は、私の腕に抱きついてきた。こういうオーバーリアクションを取るところも昔から大好きだ。自分の腕に当たる彼女のふくよかな胸の感触に軽い眩暈を覚えた。 嬉しそうに私の自転車のサドルにまたがる彼女の姿は純情可憐だった。真っ赤な自転車が私より似合っている。まるで彼女の為に作られた自転車のようだ。 「どうして君は泥棒という悪さを働いた後でさえそんなに可憐で美しいのか!」 そう叫びたくなる衝動を抑えて「自分は徒歩通学だからそろそろ帰るよ」と嘘をついて帰ろうとした私の背中に彼女の言葉がかかる。 「じゃ、途中まで二人乗りで一緒に帰ろう! 御礼もする! 帰りにたこ焼き奢ってあげる!」
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私に断る理由などなかった
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死にたい夜にかぎって

もの悲しくもユーモア溢れる文体で実体験を綴る“野良の偉才”、己の辱を晒してついにデビュー!

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