美しく可憐な女子高生が私の高級自転車を盗もうとしていた――爪切男のタクシー×ハンター【第十七話】
かくして、私は自分で自分の自転車を盗むことと相成った。彼女が苦戦していたのは、後輪に付いていたチェーン型のナンバーロックだった。力任せに切れる代物ではない。その強度は私が一番知っている。もちろん私は暗証番号を知っているので、やろうと思えばすぐに解除ができたのだが、少しだけドラマチックな演出をした。まずは力技でチェーンを切ろうとするもあえなく失敗する。その後で適当に数字を入力し始めて、偶然を装ってロックを解除する。その奇跡を目の当たりにした彼女の驚く顔が見たい。暗証番号は「9465」で覚える語呂合わせは「苦しむ六つ子」である。こういう演技をするのは苦手だったが、できるだけ自然に行動した。私が鍵を開けた瞬間、目をまん丸にして驚いた彼女は、私の腕に抱きついてきた。こういうオーバーリアクションを取るところも昔から大好きだ。自分の腕に当たる彼女のふくよかな胸の感触に軽い眩暈を覚えた。
嬉しそうに私の自転車のサドルにまたがる彼女の姿は純情可憐だった。真っ赤な自転車が私より似合っている。まるで彼女の為に作られた自転車のようだ。
「どうして君は泥棒という悪さを働いた後でさえそんなに可憐で美しいのか!」
そう叫びたくなる衝動を抑えて「自分は徒歩通学だからそろそろ帰るよ」と嘘をついて帰ろうとした私の背中に彼女の言葉がかかる。
「じゃ、途中まで二人乗りで一緒に帰ろう! 御礼もする! 帰りにたこ焼き奢ってあげる!」
|
『死にたい夜にかぎって』 もの悲しくもユーモア溢れる文体で実体験を綴る“野良の偉才”、己の辱を晒してついにデビュー! ![]() |
この連載の前回記事
【関連キーワードから記事を探す】
ここから先は、運命です【荻窪駅 ・邪宗門(喫茶店)】/カツセマサヒコ
立ち飲みおでん屋の恋【王子駅 ・平澤かまぼこ】/カツセマサヒコ
笑い声は、デバババ【中野駅・酒道場】/カツセマサヒコ
窪塚洋介を目指した先で【池袋駅・友誼食府】/カツセマサヒコ
冒険はしずかに始まる【押上駅 ・ 東京スカイツリー】/カツセマサヒコ
「風呂ナシ部屋で、ガラケー生活」タブレット純(49歳)があえて“不便な生活”を実践するワケ
「お笑いの舞台で救われた」“ムード歌謡の貴公子”タブレット純が語る、ダメ人間だった時代
『バカはサイレンで泣く』イベントで「貴乃花」をお題に大喜利大会。大賞は狂気を感じる大作に
女性の前を歩いてリードする? それとも後ろを歩いて見守る派?――爪切男の『死にたい夜にかぎって』<第7話>
サブカルおじさんの罪と罰――鈴木涼美の「おじさんメモリアル」
あったはずない「昭和」にハマる人続出!呂布カルマ、宇多丸も絶賛「架空昭和史」ってなんだ
「嫌な思い出も笑えるように描けば救われる」訪問販売の経験を漫画にした理由
ホラーがヒットしないのは「経済的にしんどいし現実が苦しい」のが原因!?<劇画狼×崇山祟対談>
真のニート漫画…/新・アラだらけ君〈第8話〉
最強家族と出会った「葛飾区お花茶屋」の夜/清野とおる×パリッコ
タクシーに乗ると“前の客が置いていったビニール袋”が…「その場で降りました」予想外の中身に大パニック
大雨で密閉されたタクシーは“耐えられない悪臭”だった…「次の被害者が出ないように」乗客がとった行動
「すぐそこやないか。歩け」と暴言を吐かれた…「京都の個人タクシーは最悪」と主張する男性が受けた非道の数々
後部座席でイチャイチャしていたカップルが…タクシー運転手が“気まずかった”客5選
急増するJPNタクシー、現役ドライバーが明かす不満点「車内空間は広いけど」
死にたい夜にかぎって空にはたくさんの星が輝いている――爪切男の『死にたい夜にかぎって』
人生の岐路に立たされたときこそ“テキトーな占い師”を頼りたい――爪切男の『死にたい夜にかぎって』<第8話>
女性の前を歩いてリードする? それとも後ろを歩いて見守る派?――爪切男の『死にたい夜にかぎって』<第7話>
コインランドリーでゴムをばらまく“コンドームおじさん”を追え!――爪切男の『死にたい夜にかぎって』<第6話>
借金取りを本気で殺そうとしたプロレス少年の愛と絶望――爪切男の『死にたい夜にかぎって』<第5話>
たこ焼き屋を営んでいた50代男性の後悔。「タコの代わりに入れたもの」がバレて店が潰れるまで
串カツ田中に「子供と行くとお得になる理由」。夏休みに“絶対に行きたい超お得サービス”とは
食べると危険なたこ焼!? SPA!30周年×築地銀だこハイボール酒場のスペシャルメニューが登場!
こんな「たこ焼」見たことない!? SPA!30周年×築地銀だこコラボたこ焼が発売決定!
美しく可憐な女子高生が私の高級自転車を盗もうとしていた――爪切男のタクシー×ハンター【第十七話】
副業3600万円のブロガー、マジメに確定申告したら税金がヤバいことに…
漫画家ゴトウユキコ「性描写は恥ずかしいけど描かないとだめになる」
新卒の会社をすぐ辞めてブロガーに…年間300万円のスポンサーがつくようになるまで
3年間で500記事を書き散らしたブロガー“勝手につくば大使”の苦悩――「やめちまえ!」と言われてもつくばが好きだから…
女への憧れと憎しみを抱いて生きてた。それでも出会った女はみな天使だった<話題の派遣社員・爪切男インタビュー>
死にたい夜にかぎって空にはたくさんの星が輝いている――爪切男の『死にたい夜にかぎって』
人生の岐路に立たされたときこそ“テキトーな占い師”を頼りたい――爪切男の『死にたい夜にかぎって』<第8話>
女性の前を歩いてリードする? それとも後ろを歩いて見守る派?――爪切男の『死にたい夜にかぎって』<第7話>
コインランドリーでゴムをばらまく“コンドームおじさん”を追え!――爪切男の『死にたい夜にかぎって』<第6話>
借金取りを本気で殺そうとしたプロレス少年の愛と絶望――爪切男の『死にたい夜にかぎって』<第5話>
この記者は、他にもこんな記事を書いています