月収9000円、カンボジアのスラムでアパート経営する一橋大卒の72歳~日本を棄てた日本人~
日本の大企業で定年まで勤め上げたF原さんには、結構な額の年金を受け取る権利がある。しかしどういうわけか、彼はそれを全放棄。誰にも訳を話すことなく、極貧生活に甘んじている。
本来受け取れるはずの(この国では)莫大な金をドブに捨てた結果、年間300ドル程の滞在ビザ代も払えず、ここ10年はカンボジア人のふりをしながら不法滞在。
3部屋しかない長屋は、(この辺りの相場で)1部屋の家賃がわずか月約30ドル(3千円ちょっと)にしかならず、全部貸しても収入は1万円程度。全部屋貸したら自分の居る場所は無いし、どうがんばっても実入りは6千円止まり。
そこで理数系のF原さんは思いもしない戦法に打って出る。妻を実家に帰して完全別居。3部屋のうち1部屋をカンボジア人、2部屋を困窮日本人に貸し、己は廊下の片隅にブルーシートでこさえたタタミ一枚のミニテントにこもるという生活を始めた。
毎日吸うタバコや蚊取り線香は、理由をつけては店子の日本人の部屋に立ち寄り、その都度くすねたもの。視覚障害者の店子に「毎日散歩に連れて行ってやるから、散歩代百ドル払え」と迫り、断られると逆切れして部屋の前に殺虫剤を撒き散らすなど、年齢に反した猛獣ぶりも凄まじい。
昨年末、そんなF原さんに同情したある日本人が日本製の味噌を寄贈した。嬉しさの余り、涙を流して礼を述べたF原さんは早速、自慢の味噌汁を作ったが、カレーのようにドロドロの味噌汁には具が一切なく、聞けば鍋ひとつぶんの味噌汁を作るのに味噌を一袋ぜんぶ使い切ったらしい。皆が唖然とするなか、そのドロドロの味噌汁をうまそうに平らげてしまった。せめて、だし入りであったことを願わずにはいられない。
日本と離れすぎたあまり、味噌汁の味をきれいさっぱり忘れてしまったのか、あまりの暑さに薄味を受け付けなくなったのか、あるいは認知症なのか……。そんなF原さんに、今後の夢を聞いてみた。
「君は文章を書いているのか? 実はわしも物書きになろうと思っておってな……。上手くなりたければ司馬遼太郎を読むといい」
インターネットはおろかラジオもない、全てのニュースを旅人の口伝に頼りながら、ボロボロの大学ノートに「宮本武蔵論」をしたため、文壇デビューを画策中のF原さん。むろん昨今の出版不況など知る由もない……。彼の夢が叶う日はくるのか。それ以前にパスポートも無いから、授賞式は衛星中継が必要になるなあ……。
【クーロン黒沢】
東京生まれ。90年代からアジア(香港・タイ・カンボジアなど)、洋ゲー、電話、サバイバル、エネマグラ等、ノンジャンルで執筆。強盗・空き巣被害それぞれ一回、火事・交通事故(轢き逃げされた)各一回、その他、様々なトラブルを経験した危機管理のプロ。現在は人生再インストールマガジン『シックスサマナ』発行人。同名のポッドキャストも放送中。
<取材・文/クーロン黒沢>
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