相模原・障害者施設での殺人はなぜ起こってしまったのか
神奈川県相模原市緑区の障害者施設「津久井やまゆり園」に26日未明、「刃物を持った男が侵入してきた」と110番通報があり、男に刺されるなどして19人が死亡、26人が負傷した事件は世間に衝撃を与えた。
重傷者には首に刺し傷があり、胸や腕などにも複数の傷があったという。県警は殺人未遂と建造物侵入の疑いで、26歳の元職員・植松聖容疑者を逮捕。神奈川県などによると、植松容疑者は平成24年から同施設に勤務し、今年2月に「自己都合」を理由に退職し、在職時は入所者の生活支援を担当していたという。
報道を受け、評論家の石平太郎氏が「男一人が次から次へと39人に凶行を及ぼしたのに、警備員や職員さんたちはそれを途中で食い止めることができないのか」と発言をするや、ネットではたちまち議論が巻き起こる展開に。 この問いに対して、同じケアの現場である地方の特別養護老人ホームに勤めている30代の女性職員は、犯行当時の状況をこう推測する。 「まったく同じ状況とは言えませんが、給与や労働時間の面においては障害者施設も相当な苦労があったのかと思います。深夜だと職員1人に対して利用者30人程度を見ることになりますし、何よりも今回は元職員ということで、職員の動きや巡回時間を理解し、そこを避けて周到に犯行に及んだ可能性も考えられます。あまりにも計画的な殺人なのは、施設を理解している人だからでしょうか…」 続けて、セキュリティ面でも施設側に甘さがあったのではないかと話す。 「基本的に介護施設や障害施設の入口は関係者以外は入れないように、電子キー式を導入しているところが多いのですが、たとえ職員が辞めたとしてもパスワードを変更することはほとんどありません。もちろんこうした事態は想定していませんし、犯人はすんなりと裏口から侵入できたのではないでしょうか」 ハローワーク相模原の求人情報によると、「津久井やまゆり園」の職員は「世話人/パート労働者」として募集されており、時給は970円~1070円。「夜勤専門生活支援員」の募集となると、時給は905円だ。ちなみに、同地区の相模原市緑区の求人情報を見ると、コンビニのアルバイトの時給も905~1138円で同程度だとわかる。現在、時給905円は神奈川県内の最低賃金だ。 植松容疑者は、おおよそ最低賃金の労働条件で働いていたことに日頃から不満を感じていたことも推測される。当然ながら、介護や障害者施設以外のケアの現場も同様だ。地方都市で保育士として勤務する20代の女性も「ケアの現場に置かれた私たちの待遇は、どうしても下に見られがちのように感じます。保育士は他人のお子様の命を預かる仕事ですし、本来ならば責任重大であるはずです。少し目を離したすきに事故に遭っていたなんてことも考えられるので、精神的にもストレスを受けやすい職場です」と待遇面に対する愚痴をもらす。 そして、犯行を「食い止めることができないのか」という問いに対して、前出の特養勤務の30代女性職員はこう話す。 「もし自分がその現場に遭遇したらと考えると、刃物を振り回している男性に立ち向かうのは難しいでしょうね。まして相手は働き盛り、26歳の男性です。そして、少人数の職員が先に狙われていた状況ならば、当然そこは無法地帯となり、次々と利用者を刺していく犯人に立ち向かうことはできません」 凶行に及んだ理由の一つに労働環境の悪さがあったにしろ、これだけの凄惨な事件を引き起こした弁明にはならない。が、異変が起こっている今、ケアの現場で真面目に働く人たちの声に目を向ける必要があるのは確かだ。犠牲者ならびに被害者遺族の皆様には、謹んでご冥福をお祈りする。 <取材・文/北村篤裕>
相模原の障害者施設に刃物男が侵入して人々を手当たり次第殺傷し、19人心肺停止20人重傷となった。抵抗力の弱い障碍者に手をかけるとは、卑劣・卑怯というしかない。しかし、男一人が次から次へと39人に凶行を及ぼしたのに、警備員や職員さんたちはそれを途中で食い止めることができないのか。
— 石平太郎 (@liyonyon) 2016年7月25日
報道を受け、評論家の石平太郎氏が「男一人が次から次へと39人に凶行を及ぼしたのに、警備員や職員さんたちはそれを途中で食い止めることができないのか」と発言をするや、ネットではたちまち議論が巻き起こる展開に。 この問いに対して、同じケアの現場である地方の特別養護老人ホームに勤めている30代の女性職員は、犯行当時の状況をこう推測する。 「まったく同じ状況とは言えませんが、給与や労働時間の面においては障害者施設も相当な苦労があったのかと思います。深夜だと職員1人に対して利用者30人程度を見ることになりますし、何よりも今回は元職員ということで、職員の動きや巡回時間を理解し、そこを避けて周到に犯行に及んだ可能性も考えられます。あまりにも計画的な殺人なのは、施設を理解している人だからでしょうか…」 続けて、セキュリティ面でも施設側に甘さがあったのではないかと話す。 「基本的に介護施設や障害施設の入口は関係者以外は入れないように、電子キー式を導入しているところが多いのですが、たとえ職員が辞めたとしてもパスワードを変更することはほとんどありません。もちろんこうした事態は想定していませんし、犯人はすんなりと裏口から侵入できたのではないでしょうか」 ハローワーク相模原の求人情報によると、「津久井やまゆり園」の職員は「世話人/パート労働者」として募集されており、時給は970円~1070円。「夜勤専門生活支援員」の募集となると、時給は905円だ。ちなみに、同地区の相模原市緑区の求人情報を見ると、コンビニのアルバイトの時給も905~1138円で同程度だとわかる。現在、時給905円は神奈川県内の最低賃金だ。 植松容疑者は、おおよそ最低賃金の労働条件で働いていたことに日頃から不満を感じていたことも推測される。当然ながら、介護や障害者施設以外のケアの現場も同様だ。地方都市で保育士として勤務する20代の女性も「ケアの現場に置かれた私たちの待遇は、どうしても下に見られがちのように感じます。保育士は他人のお子様の命を預かる仕事ですし、本来ならば責任重大であるはずです。少し目を離したすきに事故に遭っていたなんてことも考えられるので、精神的にもストレスを受けやすい職場です」と待遇面に対する愚痴をもらす。 そして、犯行を「食い止めることができないのか」という問いに対して、前出の特養勤務の30代女性職員はこう話す。 「もし自分がその現場に遭遇したらと考えると、刃物を振り回している男性に立ち向かうのは難しいでしょうね。まして相手は働き盛り、26歳の男性です。そして、少人数の職員が先に狙われていた状況ならば、当然そこは無法地帯となり、次々と利用者を刺していく犯人に立ち向かうことはできません」 凶行に及んだ理由の一つに労働環境の悪さがあったにしろ、これだけの凄惨な事件を引き起こした弁明にはならない。が、異変が起こっている今、ケアの現場で真面目に働く人たちの声に目を向ける必要があるのは確かだ。犠牲者ならびに被害者遺族の皆様には、謹んでご冥福をお祈りする。 <取材・文/北村篤裕>
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