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「踊らない美人より踊るブスの方がいい女」私は彼女と踊り続けた――爪切男のタクシー×ハンター【第二十一話】

 普段から全く運動をしていなかったことと断薬の効果も合わさって、彼女の体重はみるみると落ちていった。目に見えた成果が出ることが嬉しいようで、彼女の奇怪な踊りは毎日続いた。仕事を終えた私がスヤスヤと寝ている間もずっと踊り続けていた。ただ、禁断症状も相変わらず発症していた。踊りを終えた後に首を絞めて来た時は、首を絞める儀式の前に神への踊りを捧げている部族に見えた。首を絞めた後に踊っているのを見た時は、私の首を絞めることができた喜びの舞を踊っている部族に見えた。愛した女は部族でした。  そんな些細なことでは怒らなかったが、これだけ毎日踊り続けているのに全く上達しない彼女の下手糞な踊りにイラついてきた。私は毎日一生懸命働いているのだ。仕事を終えて帰ってきた私を奇妙なサイドステップではなくて、少しは華麗な踊りで出迎えるのが、家で旦那の帰りを待つ嫁の務めではないのか。せめてもう少し踊りのバリエーションを増やすことはできないものか。 「ね、ちょっといいかな」 「何?」 「踊るの止めてこっち来て」 「何?」 「踊るのを止めなさい」 「何で? 踊りながらでも聞けるよ」 「人の話というのは踊りながら聞くものではないよ」 「そんなの私の勝手でしょ」 「分かった、じゃあ踊りながら聞いて」 「うん」 「ね、どうせ踊るなら色んな踊りを覚えた方が楽しくない?」 「私、体動かしてるだけで楽しいんだけど」 「毎日、横にしか動いてねえじゃん」 「何? 私の踊りに文句あるの?」 「私の踊りって言えるほどの踊りじゃねえだろ」 「わけ分かんない! なんなの?」 「どうせ踊るならちゃんと踊ったらって言ってんの」 「は? ダンサーでもないくせに説教?」 「疲れて帰ってきた時にあの動き見ると余計に疲れるんだよ!」 「……ひどい! ……ひどい!」  彼女は大粒の涙を流し始めた。私も半ベソをかいていた。二人とも分かっていた。彼女のサイドステップは何も悪くない。お互い疲れているだけだ。仕事、夢、借金、病気、家族問題。色々なことが臨界点を迎えていたのに目を背け、騙し騙しの日々を生きていた。そのツケが彼女のサイドステップで爆発しただけだ。色々なことを乗り越えてきたが、この長年の恋もサイドステップで終わる。いつだって終わりはそんなものか。
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「……踊ってみろよ」
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死にたい夜にかぎって

もの悲しくもユーモア溢れる文体で実体験を綴る“野良の偉才”、己の辱を晒してついにデビュー!

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