「踊らない美人より踊るブスの方がいい女」私は彼女と踊り続けた――爪切男のタクシー×ハンター【第二十一話】
社交ダンスが趣味だという道場六三郎によく似た初老のタクシー運転手に、彼女との思い出話を一方的に話した。
「いい彼女さんだったんですね」
「そうですね、踊りは全く上達しなかったですけど」
「上手い下手じゃなくて、踊ってる女性って可愛いと思いませんか?」
「めちゃくちゃ可愛いです」
「私もです。女性が踊る姿を見ているだけで幸せになります。北朝鮮のお偉いさんが、綺麗な女性達にラインダンスをさせる気持ちが少し分かります。見世物だ、女性差別だと言われる方もいますけど、あれは女性にしかできない素晴らしいことですからね」
「あの場にいたら、私もきっと笑顔になると思います」
「男女問わず、辛いことがあったら何も考えずに踊ればいいんですよ。恥ずかしいから踊らないって人もいますけど、そうやって自分を捨て切れないからダメなんだろうなと思います」
「極論に近いけど素敵な考え方ですね」
「長い人生の中で、誰でも一度ぐらいは踊らないといけない時ってあると思うんです。そこでちゃんと踊れた人は、少なくとも楽しい人生を送っている気がしますね」
「私も次の機会があったらちゃんと踊ります」
「あと、良い女性の条件。踊らない美人より踊るブスの方がいい女です。間違いないです」
「美人が踊ったら?」
「無敵ですね」
「ははは」
口が悪いけど、女性への深い愛情を感じる運転手の言葉は心地よかった。後部座席に深く座り直し、携帯電話で動画を見る。音楽家になりたいと言っていた彼女は、見事にその夢を叶えた。ただ、その動画に映っている彼女の踊りは、私と付き合っていた頃と同じように下手糞だった。元気そうで何よりです。
踊りにはその人の性格や人生が必ず現れる。激しい踊り、優雅な踊り、静かな踊り、正確無比な踊り、道を外れた邪道な踊り。同じ踊りは一つとしてない。今にして思えば、基本に忠実にあろうとし過ぎて、見映えばかりを気にしていた私の踊りはつまらない踊りだった。彼女の踊りは奇怪な動きではあったが、情熱に溢れていて、見る者の感情を強く揺さぶる踊りだった。そんな彼女と彼女の踊りが本当に大好きだった。
過去の思い出に浸るのはこれぐらいにして、次の女を見つけに行こう。もちろん踊る女がいい。踊らない淑女より踊るヤリマンの方が何倍も素敵だし信用できる。もしくは、頑なに踊ろうとしない堅物の女を、なんとか一緒に踊らせるのもまた一興だ。首から上を全く動かさないSAM直伝のダンステクニックで世の女を刺激してやろう。私の人生もダンスもまだはじまったばかりなのだ。
文/爪 切男 ’79年生まれ。会社員。ブログ「小野真弓と今年中にラウンドワンに行きたい」が人気。犬が好き。 https://twitter.com/tsumekiriman
イラスト/ポテチ光秀 ’85年生まれ。漫画家。「オモコロ」で「有刺鉄線ミカワ」など連載中。鳥が好き。 https://twitter.com/pote_mitsu
※さまざまなタクシー運転手との出会いと別れを繰り返し、その密室での刹那のやりとりから学んだことを綴ってきた当連載『タクシー×ハンター』がついに書籍化。タクシー運転手とのエピソードを大幅にカットし、“新宿で唾を売る女”アスカとの同棲生活を軸にひとつの物語として再構築した青春私小説『死にたい夜にかぎって』が好評発売中

―[爪切男の『死にたい夜にかぎって』]―
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『死にたい夜にかぎって』 もの悲しくもユーモア溢れる文体で実体験を綴る“野良の偉才”、己の辱を晒してついにデビュー! ![]() |
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