なぜロンドン・パラリンピックのチケットは史上初めて完売したのか? 乙武氏が世界中を放浪して気づいたこと
このような文化は、公共交通手段以外でも垣間見えた。
「あるとき、16時50分ぐらいに薬局に入ったら、『17時、閉店するからね』とくぎを刺される。それも、16時57分になると『あと、3分だよ』と追い打ちをかけてくる。これには、正直イラッときたけど、ある意味、健全だなとも思ったんです」
残業しないイギリス国民は17~19時にかけてパブに繰り出して1、2杯のビールを煽り、19時には帰宅して家族と夕食を共にするという。土日は完全にオフ。そのため、水回りのトラブルが発生した場合には、修理業者が週明け月曜日にならないと来ないことも……。日本では24時間対応のサービス業者も少なくないが、イギリス国民からすれば「夜中まで働くなんてバカでしょ」という発想。不便だけど、みんなで受け入れようという考え方なのだ。
「そのため、過労死って表現がない。英語でも『Karoshi』なんです。イギリス人のみならずヨーロッパの人々はすごくオン、オフの分け方が上手で、オフの楽しみ方も充実している。日本が学ぶ点は多いと感じました」
小学校の教員を務めた経験を持つ乙武氏ならではの視察先も披露された。
「ケンブリッジにMBA留学している友人にも会ってきたんです。その友人が言うには、座学は飛びぬけてレベルの高いものではない。一番の学びは、世界各地から来ているさまざまな国籍の人たちと、さまざまなプロジェクトを並行してやらされる点にある、と。そうすると、国によってまったく文化や発想が違うことがわかるんです。インド人は課題をやってこなかったり、チリ人になるとミーティングにさえ来ないこともある(苦笑)。そのなかで、日本人は圧倒的に英語が苦手。仲間内でも『よく英語がしゃべれないのに、ここに来たな?』とか言われることもあるそうなんです。でも、英語が苦手な人が仕事もできないというわけではない。日本人は規律を守る真面目な一面がある。英語ができる人を動かして、プロジェクトを管理するなど、日本人ならではの立ち回り方があるんです。私はこれを聞いたときに、グローバル人材を育てるって、こういうことなんだなと感じました」
日本ではとかく、「グローバル人材の育成≒英語教育」と考えられがち。だが、乙武氏は「国籍、文化、発想の異なる人たちのなかで、自分の立ち回り方を知ることが、本当のグローバル教育」だと気付いたようだ。
こうした教育者的視点は、今回のトークショーで随所に垣間見えた。フランス旅行の際には、マクロン候補が激戦を制した大統領選挙を取材。勝利演説のときに、「小学生が憧れのプロ野球選手のように、マクロンさんを見ているのが印象的だった」という。フランスでは小学生時代から家庭内で政治談議をするのが一般的。政治と宗教の話はタブーのように扱われる、日本とは大きく異なる。
オランダはソフトドラッグも買春も合法化されている国として有名だが、「これはすべてが国民の判断に委ねられている」から。言い換えれば、「大人な国」だ。乙武氏が視察したオランダの小学校では、1クラスを2人の教員がワークシェアリングをしながら受け持っていたという。「教師に話を聞くと、子供だって大人と相性がある。だから、2人ぐらいいたほうがいいじゃん、という考え方でした(笑)」
その小学校の教育カリキュラムも興味深い。
「午前は基本的に“個別学習”。小学生が自分で、自分の時間割を考えるんです。日本でやったら、おそらく何をしたらいいかわからず、『休み時間』ばかりの時間割りをつくる子が続出するでしょう。けど、オランダでは一人一人が図鑑を手に取って勉強したり、教室に1台だけあるパソコンで調べ物をしたりするんです。なぜ、これができるかというと、幼稚園児のときから『外でサッカーをする』『絵本を読む』といったいくつかの選択肢を用意して、それぞれの園児が“遊びの時間割り”を組む。自分で考えて判断する力を、小さい頃から養っているんです」
ユニークなのは、小学1~3年生混合のクラス割りを採用している小学校もある点だ。自然と、3年生が1、2年生の面倒を見る機会も増える。
「体の大きさもバラバラだし、3年生は勉強ができて、1年生は勉強がまだできない、ということも当たり前のように学べる。そうすると、イジメが起こりにくくなるんですよ。だって、“できない子”がいて、当たり前なんですもん。できない子をイジメようと思ったら、1年生全員が対象になってしまう。この教育方針を魅力に感じて、一家でオランダに移住された日本人家族にも会いました。帰化申請をするつもりだって言うので、子供が母国で暮らす選択肢を奪うんじゃないですか?ってイジ悪な質問をしてみたんですけど、『そんなことを気にするのは日本人ぐらいだけですよ』って言われちゃいました。移民国家のオランダにはいろんな人がいるから、日本人だからと浮くこともない。オランダ語はしゃべれないけど、英語はしゃべれるというオランダ人も多い。これが本当にグローバルな国民性なのかなと感じました」
教育者としての視点に加えて、時に差別されることも少なくない障碍者ならではの視点を披露するのが乙武氏の真骨頂だ。ポーランドのアウシュビッツを訪問したときには、「実際にはユダヤ人だけでなく、ポーランド人の政治犯や障碍者、ゲイなどの性的マイノリティー、そして『ロマ』と呼ばれるジプシーたちも虐殺されたことを初めて知った」という。
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