更新日:2018年05月22日 15:33
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なぜロンドン・パラリンピックのチケットは史上初めて完売したのか? 乙武氏が世界中を放浪して気づいたこと

 イスラエルではユダヤ教徒が保守的な暮らしをするエルサレムの中心街や地中海に面した開放的な都市テルアビブを訪問。その2都市のLGBTに対する受け止め方にはカルチャーショックを覚えたとか。 「保守的なユダヤ教徒の方たちは、LGBTに否定的なんです。その聖地であるエルサレムに住む人たちは特に……。東京で毎年行われているLGBTによる『レインボープライド』のようなパレードが、エルサレムでも行われているのですが、その参加者の一人がユダヤ教徒に刺殺されたこともある。一応、市街には2、3軒のゲイバーがあるんですけど、数か月に1回程度の割合で、襲撃事件が発生するらしいんです。一方で、テルアビブは真逆の雰囲気。地中海に面していることもあって、開放的なんです。水着のお姉さんが自転車に跨っている感じと言えば、伝わるでしょうかね。だから、ものすごくLGBTにもフレンドリー。そこかしこで手を繋いでいる同性カップルも見かけました。面白いことに、イスラエルは世界有数のスタートアップ大国として知られているんです。イスラエルは周りを敵対するアラブ諸国に囲まれています。自立するには、圧倒的な軍事力を持つ必要があった。それで、新たなテクノロジーを育てるべく、AIや医療などのベンチャーを国をあげてバックアップしてきたんです。倒産しても、食っていけるようにフォローもしている。このテルアビブを、僕は『火種を抱えたシリコンバレー』と名付けました(笑)」  乙武氏はイスラエルと敵対するパレスチナにも足を運んでいる。それも、一般には立ち入りが困難なガザ地区に。 「数日おき、数か月おきにミサイル攻撃を受けて、建物が壊されるんです。それも、イスラエル軍が持ち込みを許可した物資しかガザに入ってこないので、建築資材が確保できず、立て直しもできない。じゃあ、何がガザに入ってくるか?というと、イスラエルで売れ残ったものなんです。何年前のもの?っていうぐらい、古いブラウン管のテレビや洗濯機しか入ってこない。それなのに、ガザの人々の手にはスマホがある。スティーブ・ジョブスって本当にスゴイな!って、思いましたね」
パレスチナのガザを訪問した際にはボロボロの街並みに衝撃を受けたという

パレスチナのガザを訪問した際にはボロボロの街並みに衝撃を受けたという

 さらに、アメリカのニューヨーク訪問時のエピソードや、インドの聖地バラナシで“世界一危険なお祭り”に参加した話、ルワンダでは屈託ない子供たちに手足を触られまくった話などを披露した乙武氏。だが、「最も住みやすい」と感じたのはオーストラリアのメルボルンだという。 「正直言うと、移住を考え始めていたんです。プライベートな問題でやいのやいの言われて、日本ではやりたいことができなくなっていたので。候補地は3つありました。1つ目はバルセロナ。サッカーも見られるし、海もある。ただ、直行便がなくて、英語圏じゃないのでイチからスペイン語を学ぶ必要がありました。2つ目はイスタンブール。物価が安くて、市内を走るトラムという路面電車は、車イス利用者としては便利でした。ただ、バルセロナ以上に英語が通じない……。3つ目はサンフランシスコ。西海岸は抜群に気候がいいし、バリアフリー対策も世界一。LGBTにも寛容です。ただ……家賃が高すぎ! 家賃が払えなくなって、ホームレスになってしまった人も多いんです。どこも一長一短ですね。そのなかで、メルボルンは別格でした。住んでよし、直行便もあり、時差は東京と1時間で、日本とやり取りするのにも適しています。移民が多く、特にチャイニーズ系が多いので、メシが抜群にウマイ! 差別感情が薄いと言われるロンドンでも、人種間のヒエラルキーのトップは白人。でも、メルボルンは町全体を移民たちと一緒に作ってきたという意識が強いので、みんな仲間という考え方。海に行けば、水着の“上”を外して寝転んでいるお姉さんもいる(笑)。これは移住するしかない!って思ったんです」
移住するにはここしかない!と感じたメルボルンだったが……

移住するにはここしかない!と感じたメルボルンだったが……

 だが、その考え方は滞在3週間で逆転する……。 「都市として恵まれすぎて、退屈だと思ってしまったんです(苦笑)。障碍のある人、そうでない人も平等なはずなのに、やれることとやれないことが出てきたり、そもそも選択肢が与えられなかったりする社会を変えたいという思いがずっとあるんです。同じだけの自由と権利が保証される当たり前の社会にしたいと思って、2年前まで僕としてはやってきたつもりなんですよ。自分のプライベートのだらしなさが災いして……そういうことをやらせてもらえなくなってしまったんですけど、僕は生きづらさを感じるぐらいのほうがワクワクしてしまうんです。それで、日本に帰ってきてしまいました。この日本の現状を指を咥えて見ているわけにはいかない、と。まあ、咥える指はないんですけど(笑)」  最後に付け加えておくと、乙武氏以上にユニークだったのは、トークショーの参加者たちだった。 「プロ自由じん」(@hiroyamiaz)さんは前日に「乙武さんの話聞きに東京まで行ってきます 誰か乗せて」とヒッチハイクする様子をツイッター上にアップ。実際には夜行バスで駆けつけたが、「お金がないので、帰りはヒッチハイクで帰ります」とコメント。「うつ病になって引きこもっていたんですけど、AbemaTVの『エゴサーチTV』という番組に出演した乙武さんが『自分を変えるために環境を変えた』という話しているのを聞いて、東京に行って乙武さんに会うことで自分の環境を変えたいと思った」のが、急きょ大阪から駆け付けた理由だったという。
ブラックジョークの効いた「TENGA」をプレゼントする参加者も

ブラックジョークの効いた「TENGA」をプレゼントする参加者も

 障碍を抱えながらも車イスで駆けつけた「いけぴー」(@ikep_second)さんは、中学生時代に講演で乙武氏が徳之島を訪れた際に初めて対面。その後、東京に移住したため、「十数年ぶりに乙武さんに会おうと参加させてもらいました」と話していた。「2年前の騒動も、僕としては乙武さんらしいなぁという印象しかなかった(笑)。ああいう体なのに、『安定した生活がつまらない』って言ってのけるのも、すごい乙武さんらしくて面白いと思った」という。  トークショーで乙武氏は数々のグローバルで多様性に溢れた国々を紹介してくれたが、それ以上に多様性に溢れていたのがトークショーの参加者だったのだ! 取材・文/池垣 完(本誌) 撮影/山田耕司 ※海外写真は乙武氏より
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