奨学金を返済できない若者が増加。背景に「教育に予算を割きたくない国の本音」
――どうして国公立大学の学費は値上げされていったのでしょうか?
栗原:文部省が1971年に中央教育審議会に答申を求めていて、そこで学費を値上げしろという案を出しているんです。理由は単純で、このままだと国公立大学の人気がなくなります、それは学費をあまり取っていないからだと。施設や教員にカネをかけられない、だから私立に負けるんだということで、私立に合わせて学費を値上げしようとなりました。
その昭和46年の「四六答申」で出てくるのが受益者負担。大学に行くには、その利益をうける親と子供が払うのが当たり前だという考えです。1970年代からそう言われてきて、しかも少しずつ学費が上がってきて、それが当たり前だと思われるようになってしまった。でも本当は、国が予算を出したくないだけとしか思えない。文科省では、たまに「給付型の奨学金を作りましょう」と掲げる大臣も出たりはしていますが、財務省や経産省との争いで結局は負けています。
――具体的に、「国公立大学の人気がなくなった」というのは?
栗原:その少し前、学生反乱が起きてるんです。自分の人生の階梯を見つめ直したい。いい大学に入って、いい企業に勤めて、エリートになって、他人を蹴落とし、弱者は見捨てろと、そうしなきゃいけないと言われていた常識を疑いたいという考えが広がった時期があった。そこで大学当局はこう言い始めるんです。学生のニーズにあった商品を提供できていないから、不満を言う輩がいっぱい出てくる。だったら、それを整えれば学生は反乱を起こさなくなるだろうと。もちろん、そういうことじゃないんですけどね(笑)。
ともあれ、学費を値上げして、有名な教員を呼んで人気講座をつくったり、就職に有利な講座をつくったり、ムダに教室を綺麗にしたりしたわけです。これで国公立が値上げを始めていくと、それに合わせて私立も負けるわけにはいかないとなって、学費の値上げを繰り返していったんです。
――対GDP比で、政府が高等教育にかけている予算をみると、日本はOECD諸国のなかでもダントツ最下位です。
栗原:学費を値上げしていくと、このままでは大学に通えない人たちが出てくるのは政府もわかっていた。だから、1980年代から建前では奨学金を拡充していきましょうと言われるようになり、でもその拡充とは何かと言うと、有利子の奨学金を増やすことだった。もともと、日本育英会(現、日本学生支援機構)には、無利子で貸し出す奨学金はあったけど、給付型の奨学金はなかったんです。要するに、借金しかない。「奨学金」と呼べるのは無利子のもののはずですが、そっちを広げるのではなくて、有利子の奨学金を増やした。それが奨学金政策の実態です。
本来の意味での「奨学金」が誕生する日はやって来るのだろうか。
【栗原康】
1979年埼玉県生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科・博士後期課程満期退学。東北芸術工科大学非常勤講師。専門はアナキズム研究。『はたらかないで、たらふく食べたい』(タバブックス)で紀伊國屋じんぶん大賞2016第6位となる
<取材・文/神田桂一>

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