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忘れてはならない日。天皇陛下と沖縄県民の「知られざる」心の交流【評論家・江崎道朗】

沖縄戦戦没者慰霊祭で唄われる天皇陛下の「琉歌」

 日本最古の歌集である「万葉集」は、基本的に雑歌(ぞうか)・挽歌(ばんか)・相聞(そうもん)の三つで構成されている。  このうちの「相聞」は、一般には恋の歌と思われているが、その原型は、近親、知人の間に贈答された歌だ。「呼ぶ歌」に対して必ず「応える歌」があり、歌のやりとりを通じて心を通じ合わせる。こうした文学の伝統が日本には存在する。  万葉集以来のこうした伝統を踏まえたのかどうかはわからないが、陛下の「戦争のことを繰り返し繰り返し思いながら」と「呼びかけた歌」に対して、沖縄は「応えて」いるのだ。  毎年6月23日、沖縄戦で亡くなられた全ての戦没者に対する追悼式が、摩文仁にある平和祈念公園で行われている。その前夜祭が毎年6月22日、同じ平和祈念公園内にある沖縄平和祈念堂にて財団法人沖縄協会主催で実施されている。  この前夜祭では、三百名ほどの遺族が参列し、琉球古典音楽の献奏と琉球舞踊の奉納を行う。沖縄に古くから伝わり、親しみのある伝統芸能で戦没者の御霊を鎮めたいとの沖縄県民の祈りがこもった慰霊祭がこの前夜祭だ。  この前夜祭において献奏の最初に唄われるのが、陛下のあの琉歌なのだ。  献奏を行っている琉球古典音楽湛水流保存会会長の島袋英治氏は、その理由をこう述べている。 《天皇陛下の琉歌に「くり返し返し思ひかけて」という表現がありますが、この表現はすごいと思ったのですね。  なぜかというと、戦争が終わって、戦の跡はほとんど元に戻って、木や草もたくさん生い茂ってどこで戦があったかわからなくなっている今だが、しかし、繰り返し繰り返し、この当時のことを思い出して、亡くなった方たちのことを思いながら二度と戦争を起こしてはいけない、今後の平和を皆で考えていこうという、その想いが、この表現にあって、私はこの歌を歌うたびに感動しています。  決して忘れてはいけない、そして、いつまでもみんなで平和を作り上げていくんだという強いお気持ちをここからいつも汲み取れるのです。  ですから、これを歌う度に、天皇陛下のお気持ちを非常にうれしく思います。》(松井嘉和編『天皇陛下がわが町に』明成社)  沖縄と本土の対立も、それが事実ならばきちんと報道されるべきだが、同時に沖縄と本土、特に沖縄と皇室のこうした「相聞」も丁寧に報じるのが公平な報道というものではないだろうか。  6月23日の沖縄戦終結の日には「戦争とその後の占領下の苦しみ」や「皇室と沖縄の心の交流」に思いを馳せ、静かに黙祷を捧げたいものだ。 【江崎道朗】 1962年、東京都生まれ。評論家。九州大学文学部哲学科を卒業後、月刊誌編集長、団体職員、国会議員政策スタッフを務め、外交・安全保障の政策提案に取り組む。著書に『アメリカ側から見た東京裁判史観の虚妄』(祥伝社)、『マスコミが報じないトランプ台頭の秘密』(青林堂)、『コミンテルンとルーズヴェルトの時限爆弾』(展転社)など
(えざき・みちお)1962年、東京都生まれ。九州大学文学部哲学科卒業後、石原慎太郎衆議院議員の政策担当秘書など、複数の国会議員政策スタッフを務め、安全保障やインテリジェンス、近現代史研究に従事。主な著書に『知りたくないではすまされない』(KADOKAWA)、『コミンテルンの謀略と日本の敗戦』『日本占領と「敗戦革命」の危機』『朝鮮戦争と日本・台湾「侵略」工作』『緒方竹虎と日本のインテリジェンス』(いずれもPHP新書)、『日本外務省はソ連の対米工作を知っていた』『インテリジェンスで読み解く 米中と経済安保』(いずれも扶桑社)ほか多数。公式サイト、ツイッター@ezakimichio

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 ’17年、トランプ米大統領は中国を競争相手とみなす「国家安全保障戦略」を策定し、中国に貿易戦争を仕掛けた。日本は「米中対立」の狭間にありながら、明確な戦略を持ち合わせていない。そもそも中国を「脅威」だと明言すらしていないのだ。

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