“高卒貧困”の深刻な実態――『学歴分断社会』著者が語る「日本の学歴トークは大卒者たちのゲームにすぎない…」
仕事や恋愛など様々な切り口で取り沙汰される学歴。卒業後、普段はあまり意識していなくとも、なにかと付きまとってくるのも事実だ。
だが、日本における学歴をめぐる議論や、メディアが報じる学歴にかんする特集については、実態からややズレた点にフォーカスが当たってしまうケースが少なくない。
学歴分断社会』(ちくま新書)を’09年に著した気鋭の計量社会学者・吉川徹氏に話を聞いた。
まず、吉川氏によれば、いま最も深刻なのは最終学歴が短大以上の大卒者と、それ以外の非大卒の分断で、それこそがさまざまな格差を生んでいる要因だという。
「貧困とか雇用不安といったことは高卒層が担っているのが現状で、大卒者との間に大きな差が生まれています。いま、“若者”を一枚岩で考えることはできません。メディアなどでよく取り上げるような学校名や学部名での比較特集は大卒者の中での限定的な話で、あくまで大卒者たちのゲーム。残りの半分である非大卒は実はまったく違うルールでゲームが動いているんです」
二者の間には経済的な格差が生まれているのみならず、人間関係なども含めたライフスタイルも大きく異なる。
「いま、研究を進めていて特に顕著なのは子供の育て方。どんな学校に行かせるかは、親がどういう教育を受けてきたかが強く影響し、教育格差につながっています」
だが、こうした傾向に当てはまらない例が出てきているのも事実だ。
大卒者の間では、高学歴で貧者、低学歴で富者といった“学歴ミスマッチ”も生まれており、日刊SPA!でも、こうした事例はたびたび取り上げてきた。
「この10年、企業は学歴だけではなく、“人間力”をシビアに見るようになっています。転職でも、学歴だけではなく、個々の能力をかつてより厳しくみるようになりました。さらに、大学ごとの特性は多様化しています。予備校の偏差値ランキングと、年収の高い企業に入る大学ランキングに並ぶ大学は決して一致していません。論文など学術的な分野だけでなく、結婚などの異性関係の面でも、偏差値と相関しない逆転現象が見られているのです」
また、アメリカなどと比べると、日本特有の学歴社会の特徴も見えてくる。
「日本の場合、30歳で1000万円自分に投資して大学に入り直しても、元は取りにくい。なので、18歳でどれだけがんばっていたかが重要になります。一方、日本以外の先進国は30歳くらいからでも大学を出た方が、そのままずっと高卒で働くよりも有利になりやすい。学位があるか、MBAを持っているか、といったことが年俸制のアメリカなどでは年収面でまともに影響してきます」
格差の本場とも言われるだけあって、アメリカの方が日本よりもある意味よりシビアな学歴社会と言えるかもしれない。だが、社会人になってから大学に入り直しても、卒業後にそれがキャリアに影響を与えにくい日本は、人生における逆転を起こしにくい“生きづらさ”を抱えているのもまた事実。一概にどちらの国の社会が望ましいとは言いにくい現状があるようだ。
<取材・文/伊藤 綾>1988年生まれ道東出身、大学でミニコミ誌や商業誌のライターに。SPA! やサイゾー、キャリコネニュース、マイナビニュース、東洋経済オンラインなどでも執筆中。いろんな識者のお話をうかがったり、イベントにお邪魔したりするのが好き。毎月1日どこかで誰かと何かしら映画を観て飲む集会を開催。X(旧Twitter):@tsuitachiii
いま、日本において本当に起きている「学歴問題」とは何なのか。『1:メディアがなかなか焦点を当てない“高卒貧困”
2:途中で大学に入学しても元が取りにくい日本社会
この記者は、他にもこんな記事を書いています
ハッシュタグ